盛岡八幡宮祭典山車
令和五年九月


 この時勢ゆえ実物を見る前に写真や動画を見てしまうことをなかなか避けられず、そういう山車のほとんどがダメに見えた。が、実物を前にすると半分くらい改善したので、山車にはまだまだデジタル的なものでとらえられない魅力があるのだなと嬉しくなり、顧みて私の写真についてもどうなのだろうと考え、考えすぎても良くないので精一杯いいヤツを選んで載せることにした。
 …半分くらいは魅力を残せたつもりだが、ダメだろうか…

 



相馬大作 / 金山踊り 三ツ割 み組

主の為なら命も捨てて 今ぞ怨みを晴らすとき(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

相馬大作 南部の誉れ 今に讃える 武勇伝
矢立峠を 見詰める先は 南部の怨みの 筒の跡

※南部流風流山車の『相馬大作』

南部美人の金山踊り 見るもあでやか品のよさ(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月南部の英雄たたえて今に 名を成す藩士の秀乃進(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

(所 感)

 非常にモノガタリの在る山車で、そこで大作がカタキを狙っている感じが確かにした。白塗りに黒衣装の押さえた色味も心地よく、背中の刀も十分に大きく目立ち、内なる躍動がよく伝わる秀作である。絵紙は従来に無い構想のみならず、実に端正であった。
 大砲が煙を吹くギミックがもっと頻繁に披露されたらな、とは思う。





榊原康政 / りんご娘 中野 と組

能筆ふるいて檄文撒けば 秀吉激怒の思う壺(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

「秀吉逆臣」 檄文放つ 十万石を 首にかけ
唸る長槍 康政振れば 秀吉撃破の 小牧山

※南部流風流山車における徳川家康四天王 井伊直政本多忠勝

恩義忘れた秀吉見よと 敵軍屠る勇む武士(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

(所感その他)

 人形を極端に寄せ、馬は思い切り沈めてあり、槍の向かう先も前代未聞の野心作である。穂先側の観客が山車の往きすぎる一瞬感じる交差具合、そこにすべてを潔く振り切った山車は、ただだた圧倒される愛すべき一台だった。
 題材は小牧山の戦い、祭典の少し前に大河ドラマに出てきた場面で、たしかに康政は大活躍し、秀吉を泣かせていた。四天王の変わり兜はいずれも背高で騎馬武者にしづらく、それゆえの調整がこの奇作を生んだのか、それとも…。





北天の魁 / 野狐三次 仙北町 は組

安倍貞任誉れも高く寄せ手蹴散らし幾代まで(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

みちのく進む 天地とともに 征くは貞任 太刀嵐
(見返し)粋で鯔背な は組の歴史 源氏車の 花まとい

※南部流風流山車の『安倍貞任』
※南部流風流山車の纏もの

粋で鯔背なは組の歴史・源氏車の金馬簾(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

(所感その他)

 北天の魁(星)とは安倍貞任のことである。物語でなくて、絢爛で雄々しい騎馬武者ただそれだけ、それが我らが奥羽の英雄!というコンセプトの山車で、昭和62年に出て大絶賛され、以来仙北町では騎馬武者の山車のみを出すようになった。
 そのリメイクは往時に並ぶ豪華で豊かな騎馬武者であり、飾り方も小太鼓も見事。見返しは戦前の纏いもの『野狐三次』を模して、ザンバラの潰しが加わった。
 懸念は一点だけ。音頭には安倍一族の最後の砦 厨川が歌われているが、終焉の地を駆ける貞任にしては若い顔である。むしろこれは、黄海の戦いで源氏を一蹴する貞任、都の武者が誰一人知らないみちのくのヒーローが颯爽と戦場に現れ燦然と輝く姿 と歌うべきであった。火消しも顔が優しく、消し口を争う勇みにやや欠ける。このあたり、河南作風がもう少しだけ強めに出てほしかった。





毛剃 / かぐや姫   【盛岡観光協会

舳先に立ちて渦巻く潮に睨み効かせて見得を切る(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

斧を振り上げ 大海原へ 博多港の 毛剃り船
(見返し)光り輝く 竹より生まれ 天に迎えの かぐや姫

※南部流風流山車の『毛剃九右衛門』

翁媼が育てし姫の月に戻りし物語(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

(所 感)

 八幡前に止められた姿を見て、これはすごい山車だなと思った。独特だし豪華だし、斧(鉞)の刃が大きいのも面白い。ただ、動き出すと斧を上げる動作がピークみたいに見え、以降の動きが見えず単調に感じた。ほんの一瞬、人形の目付きが睨んだ感じ(瞳が内側に寄った感じ)に見えた。止まっていた時は全然そう見えず、すごい技だなと思った。
 見返しは私の知らない時代の翁、彼が主役でかぐや姫は市松人形にとどまり、何度かギョッとした。傍らの斧が表と響き合っている。掲載写真は、盛岡駅前のパフォーマンス時。







鏡獅子 / 弥生 の 組

舞うは弥生か手にした獅子か蝶に戯れ狂い舞い(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

獅子の頭に 宿りし魂 牡丹の花に 遊び舞う
跳ねて乱れる 白毛の振りに 狂う勇みの 鏡獅子

※南部流風流山車の『鏡獅子』

眠りを覚ます胡蝶の舞で お小姓弥生の狂い舞(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月市川十八番の歌舞伎の舞を 後に伝えし名場面(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月








参会名護屋 / 女暫 さ 組

野暮な喧嘩(さわぎ)をしばらく留めて粋と通との花が咲く(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月疫病退治の朱鍾馗さまか暫づくしの山車(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

不破と名護屋の 鞘当て喧嘩 とめる志ばらく 皆の神
雲に稲妻 伴左衛門も 三枡の見得に 預けおく

※南部流風流山車の『暫』と派生演題

 
今の歌舞伎の礎築くけわい暫この舞台(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月








宇治川先陣 / 登龍門 城西組

駿馬いけずき鮮やに捌き 高綱音声たからかに(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

宇治の先陣 競いて勝る 近江源氏の 意気高し
(見返し)急流のぼり 武運をつかみ たどり着きたる 登龍門

※南部流風流山車の『佐々木高綱』『宇治川の先陣争い』作例比較
※南部流風流山車の『鯉の滝登り』『登龍門』

 
人世の大成たとえて伝う 龍が雲得て天翔ける(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月








碁盤忠信 / 静御前 八幡町 い組

碁盤忠信荒事活かす 仁王襷に火焔隈(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

碁盤構えて 北条方の 寄せ手蹴散らす 歌舞伎見得
(見返し)春の吉野路 静の供は 鼓のころも 影に添い

※南部流風流山車の『碁盤忠信』作例比較

 
盛岡八幡宮祭典山車(岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月 半纏新調、「寄せ手」付は昭和49年以来








羅生門 / 猩々 鉈屋町 め組

夜叉は化身の茨木童子・綱に討たるる羅生門(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

国を治めよ 上意の沙汰に 綱は武勇を 羅生門
(見返し)酒は百薬 長寿を保つ 酔った心で 舞う猩々

※南部流風流山車の『羅生門』作例比較
※南部流風流山車の『猩 々』

 
柄柄杓片手に見得きる猩々・黄金吹き出る宝甕(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月








義経千本桜 / 上堂さんさ 厨川 や組

鼓悲しや源九郎狐 静御前が袖濡らす(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月

親を慕いて 姿を借りて 九郎きつねの 見得の佳さ
春の吉野に 萬朶の櫻 誉れ忠信 世に残る

※南部流風流山車の『狐忠信』『源九郎狐』『義経千本桜』作例比較

 
上堂さんさを伝えて今に轟く太鼓の夏祭り(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月千本桜に鼓を奏で 春の吉野は絵のごとし(盛岡八幡宮祭典山車:岩手県盛岡市指定無形民俗文化財)令和5年9月






(所感の残り)

【の 組】テレビ報道時は胴長すぎる鏡獅子に見えたが、実物は長身・雄大で、近年の盛岡山車に無い雰囲気を感じた。前作のか組依拠に比べると、だいぶオリジナリティのある構想である。初め弥生の肩先にひとつだけ蝶が飛んでいたが、雨のせいか隠れたまま出てこず残念であった。
【さ 組】暫を大胆に下方に寄せてあるのはかっこいいが、相手のヤクザがそれに寄って行ってしまったのは良くなかった。桜は多すぎて綺麗に見えず、「他の組の1.5倍」「高さ7.5メートル」を実現した場面(多分盆ごと1メートルくらいせりあがったのだと思うが)を見られなかったのは残念だった…。見返しに豪華さ・作り込み感が戻ってきており、総じて楽しい山車であったことは間違いない。
【城西組】非常に豪華・絢爛な山車であり、非常に見づらい山車でもあった。武者二人の顔と背景の橋とが全部綺麗に見える瞬間が、運行中ほぼ無かったのである(八幡前だとよく見えたので、置山だったらアリ)。両者が切り結んでいる感じでなければもう少し見やすいと思うし、そもそもそういう物語だったかな…。/にしても作為の込め方が凄まじい。それは見返しにも言え、鯉のビジュアルのみならず石の門をきっちり作ったのが非常に良かった。龍に化けつつある鯉は…、面白い半分、気持ち悪い半分。
【い 組】潰し人形がこれほど活きていない山車を初めて見た気がする。下の武者と全く響き合っていないのに、下の武者が居るために碁盤忠信の体勢は従来に無くぎこちなかった。白塗りの下の武者は看板に隠され、灯にも照らされず、絵紙では青ざめ、さぞ不本意だったであろう。
【め 組】眼目の鬼の腕をつかむ部分の表現が非常に貧弱でグロテスクでさえあり、それが山車の景色をほぼすべて決めてしまった。鬼が肌色で髭が長いのも今作については馴染み切っていない。猩々は大ぶりで立派だったが、見返し人形のサイズかな…とは思う。/飾り方が変わってしまったなあと思う。牡丹の分け方も、桜の塗り方も。それでも武者の顔が二重だったり、短冊が無かったり、軒花が揺れていたり、笛のこぶしだったり昔の音頭歌詞の網羅だったりは、やっぱりめ組の山車だと嬉しくなった。
【や 組】一時期の太田の山車とはまた違った稚拙さで、見るに堪えない。特にも目玉が奥にめり込んだような顔は奇怪でしかなく、生理的な見づらさは山車人形に適さない。/良かったのは、両側に桜が付いている懐かしい感じ・音頭歌詞が市の内外から名作を集めて構成してあること・人形が大きいこと・見返しの背景が鏡面になっている工夫…などか。/写真B 3日目の午後に地元上堂を訪ね、バイパスを練り歩く姿を見た。


※各組歴代作例




写真・文責:山屋賢一(やまや けんいち)/連絡先:sutekinaomaturi@outlook.com

岩手県盛岡市 令和5年9月14・15・16日

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