沼宮内稲荷神社例大祭岩手町秋まつり2022
(題について)表裏とも盛岡山車の定番の題で沼宮内でも4組が採っているが、の組が作ったものは今回初めて見た。寝込みを襲われた義経の家来「忠信」が、寝間着のまま碁盤ひとつで夜襲の鎧武者をこてんぱんにする場面である。 (題について)盛岡の八幡町い組が昭和56年に創作した歌舞伎山車で、沼宮内には60年に初登場。花街に通う曽我五郎をテーマに、表裏で江戸遊郭の粋を存分に描いている。 (題について)秀吉の家来の加藤清正が朝鮮出兵の折、現地の猛獣を片鎌の槍で成敗してその武名を高めた。 ※暫の山車の類型・代表的な作例(愛宕組の前々作、町内川口の元禄見得含む) (題について)表は江戸荒事歌舞伎の代表曲、厄難を祓う縁起の良い題材。見返しは歌舞伎を作った江戸初期の女役者。
碁盤振り上げ 討ち手を寄せぬ 鬼神忠信 奮戦記
(見返し)藤の連なり 一枝かざし 粋な姿や 藤娘
物語のみを活かして武者もの・裸人形に仕立てた異色の碁盤忠信、実は歌舞伎の定番型の片手だけ上に…という構図だと気付いた。床は斜めに起こして敵の武者を見えやすく、かつ碁石の散らばる様子まで作ったのが嬉しい。白で充分まとまる着物を紫に染めたことで独自の味わいが生まれ、簡素な夜間照明下でより引き立った。裸人形の主役がかっこよくて強いことを非常によく見せている山車である。
藤娘も定型通りだが、いくつも工夫があって見飽きない。背景一面に吊られた淡い藤と塗笠の深さ・笠と藤の両方に添えられたような手つきが上手い。
廓通いも 仇うつ為と 紫かむりの 伊達姿
(見返し)恋の色里 暖簾を分けて しどけなり振り 羽根かむろ
大股開きで傾いている姿は普通は粋でないと思うのだが、山車の舞台をめいっぱい使う大人形の工夫としては大変面白く、当地の山車らしい見応えを感じた。着物の白と番傘の赤、牡丹の白に桜の赤が絶妙に響き合っていて、右側からも左側からも見栄えがし、変化があった。
場面・動作を吟味した見返しもなかなかで、首の向きや足の出方(履物も)・着物の裾や暖簾の留めにも細やかな気配りと創意があった。
烏帽子かぶとに 片鎌槍と 異国に咲かせる 戦さ花
鬼の清正 異国の空に 名槍かかげて 虎を突く
新町組らしい・沼宮内らしい“動きのある大人形”、手も足も槍も良
い位置で止まっている(ただ首は20度ひねりすぎ)。遠景なほど魅力的な山車であった。陣羽織は派手な色味・鎧の下の着物は岩と同化するくらい地味な柄で、岩や草木が違和感無く大人形を包んだ。腹を出して転がる虎の全景はやはり圧巻、今回は槍先が口に入り、中日の夕方からは欠いた刃が口から覗いた。胴の長さを自然に見せるのが難しい。
二見ヶ浦は沼宮内で育った代表的な無人の見返しだが、今回は朝日の景を描く新たな試みが加わった。
中日は唯一午前中から運行、狭い道を工夫しながら頑張って回り、音頭をたくさん上げた(写真2)。
名代成田屋 歌舞伎の十八番 睨みて祓う 厄と疫
歌舞伎しばらく 病を封じ 再起促す 秋祭り
歌舞伎山車の華やかさ、大人形の迫力がある。ただ元禄見得としては研究不足で、構えの美しさ・勇ましさはほぼ見えない。音頭に見える数々の「願い」が嬉しい一台ではあった。
眼目は、むしろ見返しであったように思う。片足立ちになって踊る“歌舞伎創生”出雲阿国、飾り太刀・鯉を添えて山車らしい華やかさ・面白味が演出された。開いた傘が後ろに飛んでいるのが特に良い。
令和4年の岩手山車祭り、最後に出会えたのが沼宮内の碁盤忠信である。
構想自体ははや令和元年の暮れに伺っており、本番迫って絵紙や写真が少しずつ目に留まるようになった。…違和感が強い。絵紙の髪型とか着物の色とか、肘の塩梅についてだったと思う。が、実物を前にしたらそれら全てが吹き飛んだ。それだけの力が山車にはある。その力の一端について、少しだけれど作り手さんとお話も出来た。それはそこに無いものの話より、何倍も何倍も有意義だった。
最後、格納場所に入っていく直前のの組の山車にカメラを向けた。撮りきれないもののほうが圧倒的に多いけれど、こうして山車と共に在れる自分の生き方を幸せに感じた。
写真・文責:山屋賢一(やまや けんいち)/連絡先:sutekinaomaturi@outlook.com
岩手県岩手町沼宮内 令和4年10月8日
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