沼宮内稲荷神社例大祭岩手町秋まつり2022

令和4年岩手町秋祭り合同パレード、夕方開催のため、このように全容が撮影できた




 コロナ禍の令和4年、岩手町秋まつりは4台の山車と清流太鼓・郷土芸能3組の参加で3年ぶりの開催となった(他、中日に川口から芸能2組)。おおむね例年並みに盛り上がったが、中日のパレードが夕方4時半出発に改まったことで、山車を伴う花掛けの区域や時間をだいぶ削減した組が出ている。写真は夕景のパレード。

 



碁盤忠信 / 藤 娘 【 の 組

提灯の位置が高い古態を再現、投光装置を兼ねる(岩手県岩手郡岩手町沼宮内稲荷神社祭典山車)

碁盤振り上げ 討ち手を寄せぬ 鬼神忠信 奮戦記  
(見返し)藤の連なり 一枝かざし 粋な姿や 藤娘

※これまでの作例・歌舞伎山車『碁盤忠信』の定型

 
このように顔が見えないのが非常に上手い(岩手県岩手郡岩手町沼宮内稲荷神社祭典山車)夜景、松桜の電飾が無いこの形がかえってかっこよかった(岩手県岩手郡岩手町沼宮内稲荷神社祭典山車)

(題について)表裏とも盛岡山車の定番の題で沼宮内でも4組が採っているが、の組が作ったものは今回初めて見た。寝込みを襲われた義経の家来「忠信」が、寝間着のまま碁盤ひとつで夜襲の鎧武者をこてんぱんにする場面である。
 物語のみを活かして武者もの・裸人形に仕立てた異色の碁盤忠信、実は歌舞伎の定番型の片手だけ上に…という構図だと気付いた。床は斜めに起こして敵の武者を見えやすく、かつ碁石の散らばる様子まで作ったのが嬉しい。白で充分まとまる着物を紫に染めたことで独自の味わいが生まれ、簡素な夜間照明下でより引き立った。裸人形の主役がかっこよくて強いことを非常によく見せている山車である。
 藤娘も定型通りだが、いくつも工夫があって見飽きない。背景一面に吊られた淡い藤と塗笠の深さ・笠と藤の両方に添えられたような手つきが上手い。




雨の五郎 / 禿(かむろ) 【 ろ 組

「花の姿絵」歌舞伎の十八番 雨の五郎の艶姿(2022年10月8日、岩手町沼宮内)

廓通いも 仇うつ為と 紫かむりの 伊達姿
(見返し)恋の色里 暖簾を分けて しどけなり振り 羽根かむろ

※これまでの作例

顔は川口で令和元年に出た見返し『お小姓弥生』と共通(岩手県岩手郡岩手町沼宮内稲荷神社祭典山車)蝶も華やか紅隈見せて 元禄夢想(ゆめ)の曽我の見得(2022年10月8日、岩手町沼宮内)


(題について)盛岡の八幡町い組が昭和56年に創作した歌舞伎山車で、沼宮内には60年に初登場。花街に通う曽我五郎をテーマに、表裏で江戸遊郭の粋を存分に描いている。
 大股開きで傾いている姿は普通は粋でないと思うのだが、山車の舞台をめいっぱい使う大人形の工夫としては大変面白く、当地の山車らしい見応えを感じた。着物の白と番傘の赤、牡丹の白に桜の赤が絶妙に響き合っていて、右側からも左側からも見栄えがし、変化があった。
 場面・動作を吟味した見返しもなかなかで、首の向きや足の出方(履物も)・着物の裾や暖簾の留めにも細やかな気配りと創意があった。




加藤清正 / 二見ヶ浦 【 新町組

見るも勇まし異国の空に 名を轟かす鬼将軍(2022年10月8日、岩手町沼宮内)

烏帽子かぶとに 片鎌槍と 異国に咲かせる 戦さ花
鬼の清正 異国の空に 名槍かかげて 虎を突く

※これまでの作例・当組前作含む

手拭いには伝統歌詞「智仁武勇の清正〜」の音頭も入った(岩手県岩手郡岩手町沼宮内稲荷神社祭典山車)従来の作例では、日輪は大きく丸い(岩手県岩手郡岩手町沼宮内稲荷神社祭典山車)

(題について)秀吉の家来の加藤清正が朝鮮出兵の折、現地の猛獣を片鎌の槍で成敗してその武名を高めた。
 新町組らしい・沼宮内らしい“動きのある大人形”、手も足も槍も良 い位置で止まっている(ただ首は20度ひねりすぎ)。遠景なほど魅力的な山車であった。陣羽織は派手な色味・鎧の下の着物は岩と同化するくらい地味な柄で、岩や草木が違和感無く大人形を包んだ。腹を出して転がる虎の全景はやはり圧巻、今回は槍先が口に入り、中日の夕方からは欠いた刃が口から覗いた。胴の長さを自然に見せるのが難しい。
 二見ヶ浦は沼宮内で育った代表的な無人の見返しだが、今回は朝日の景を描く新たな試みが加わった。
 中日は唯一午前中から運行、狭い道を工夫しながら頑張って回り、音頭をたくさん上げた(写真2)。




/ 出雲の阿国 【愛宕組

成田屋十八番の元禄見得で 睨む景政 悪をうつ(2022年10月8日、岩手町沼宮内)五所川原立佞武多「歌舞伎創生出雲阿国」の構想を盛岡山車へ(岩手県岩手郡岩手町沼宮内稲荷神社祭典山車)

名代成田屋 歌舞伎の十八番 睨みて祓う 厄と疫
歌舞伎しばらく 病を封じ 再起促す 秋祭り

※暫の山車の類型・代表的な作例(愛宕組の前々作、町内川口の元禄見得含む)

(岩手県岩手郡岩手町沼宮内稲荷神社祭典山車)

(題について)表は江戸荒事歌舞伎の代表曲、厄難を祓う縁起の良い題材。見返しは歌舞伎を作った江戸初期の女役者。
 歌舞伎山車の華やかさ、大人形の迫力がある。ただ元禄見得としては研究不足で、構えの美しさ・勇ましさはほぼ見えない。音頭に見える数々の「願い」が嬉しい一台ではあった。
 眼目は、むしろ見返しであったように思う。片足立ちになって踊る“歌舞伎創生”出雲阿国、飾り太刀・鯉を添えて山車らしい華やかさ・面白味が演出された。開いた傘が後ろに飛んでいるのが特に良い。



令和4年に出会えた全ての山車に感謝でいっぱいです。ありがとうございました




 令和4年の岩手山車祭り、最後に出会えたのが沼宮内の碁盤忠信である。
 構想自体ははや令和元年の暮れに伺っており、本番迫って絵紙や写真が少しずつ目に留まるようになった。…違和感が強い。絵紙の髪型とか着物の色とか、肘の塩梅についてだったと思う。が、実物を前にしたらそれら全てが吹き飛んだ。それだけの力が山車にはある。その力の一端について、少しだけれど作り手さんとお話も出来た。それはそこに無いものの話より、何倍も何倍も有意義だった。
 最後、格納場所に入っていく直前のの組の山車にカメラを向けた。撮りきれないもののほうが圧倒的に多いけれど、こうして山車と共に在れる自分の生き方を幸せに感じた。

※各組歴代作例
※令和4年総括




写真・文責:山屋賢一(やまや けんいち)/連絡先:sutekinaomaturi@outlook.com

岩手県岩手町沼宮内 令和4年10月8日

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