令和2年(コロナ禍)の岩手の山車まつり

 



花巻まつり回顧展

 新型コロナウィルス感染拡大に伴う全国一斉休校(2020.2.28〜)や政府緊急事態宣言の発出(2020.4.7)等に伴い、令和2年の岩手県内および隣県の山車行事はおおむね全て中止されました。影響としては、戦時中及び昭和40年代後半の交通事情に基づく行政規制に匹敵もしくは凌駕する規模であり、次年度以降の動向も現(2020.10.17)段階でははっきりしません。

 コロナ禍における山車行事、とりわけ「風流」山車の「運行」を伴う催事については、実施に当たって以下4つの障壁が考えられます。

1. 製作期間及び太鼓等の練習において「密集」が生じる

2. 催行当日に体調不良者を含む不特定多数の観客が集まる

3. 経済状況の悪化により、寄付・協賛を募りにくい

4. 道路使用許可等第三者が介入する部分での消極的対応


 一般的な催事では2が主な障壁となるのでしょうが、例えば久慈市の山車行事中止に当たっては1が指摘され、紫波町日詰志賀理和気神社祭典における山車行事中止は3が決定の一要因となりました。また、催事実施に当たって4の要素が障壁となりうることを多々耳にします。奥州前沢秋まつり(奥州市 2020.10.11)では、来場者をゲート1カ所のみから入れ、検温・記録済みをリストバンドで判別する等の感染予防対策がとられましたが、これらは会場を限定しなければ行えない内容です。2への配慮として、以下に整理した各地の催事のほとんどが事前告知無しで、見物者・参加者を限った形で行われました。これまで来る者を拒まず、むしろ後継者難から積極的に部外者を受け入れてさえきた催事にとって、この措置は新たな分断・当事者意識の希薄化を招く因子をはらんでいます。
 次年度の秋までに医療面での対策が整ったとしても、3の解消には尚時間を要すると考えざるを得ません。また、仮に「新しい生活様式」が比較的長いスパンで求められた場合、2と4の事情故に広範を不断に回る山車行事については大幅な変容を迫られざるを得ないでしょう。
 岩手・北東北の山車行事は今、未曽有の危機に瀕しています。【写真 花巻まつり回顧展(上町商店街にて 2020.9.13)】


令和2年(コロナ禍)の岩手山車祭り実施状況
-基本的には神事を除き、すべて中止もしくは縮小開催である-
祭典名
(所在地)
令和2年の状況
二子火防祭
(北上市)
【伝聞】

・神楽奉納(詳細不明)
笹間火防祭
(花巻市北笹間)
【伝聞】

・大乗神楽の囃子を伴う神輿の公民館巡り
黒沢尻火防祭
(北上市)
不明
日高火防祭
(奥州市水沢)
【伝聞】

・厄年連主催の競演会(後日) @駅前通り
 11/3(祝)に4時間、15団体参加
大更八坂神社例大祭
(八幡平市西根)
【伝聞】

・神事のみ
寺田白坂観音例大祭
(八幡平市西根)
不明
盛町灯ろう七夕まつり
(大船渡市盛)
【伝聞】

・半纏と灯篭絵の展示(本町、木町、吉野町)
 @ショッピングセンターサン・リア
気仙町けんか七夕
(陸前高田市)
【伝聞】

・アザフ(紙花)や笹竹で飾ったリヤカーの運行(太鼓、先導トラック伴)
大迫あんどん祭り
(花巻市大迫)
【伝聞】

・置山の製作
◎千手観音・西遊記(川若組:立体)
◎聖観音(上若組:平面、絵紙あり)


・本来の小屋位置に音頭付き角行灯たくさん(下若組)
 藤娘、鍾馗、素戔嗚尊、常盤御前、パイレーツオブカリビアンなど

・囃子、音頭上げ等の披露(上若組、下若組)
・初盆の家廻り‐音頭上げ‐(川若組)
八坂神社祭典
(二戸市金田一)
【伝聞】

・神楽奉納(詳細不明)
九戸まつり
(九戸村)
不明
鳴雷神社例大祭
(洋野町大野)
不明
八坂神社稲荷神社例大祭一戸まつり
(一戸町)
【伝聞】

・ミニ山車の製作、奉納
◎鍾馗/あまびえ(橋中組) ※後日(10/30〜11/1)一戸町文化祭で公開

・山車模型の製作、奉納
◎五条の橋 他全2品(本組)

・絵紙の発行(橋中組、本組)
※橋中組はミニ山車の絵・小さい絵紙、本組は模型とは別趣向(八岐大蛇)の絵紙

・太鼓と音頭の奉納(全組) @八坂神社境内
・音頭による門付け(野田組他)
・回顧展(映像) @本組山車小屋

※以上は事前告知無し・町内の方も当日知った
愛宕神社例大祭野田まつり
(野田村)
不明
ふだいまつり
(普代村)
不明
志賀理和気神社例大祭日詰まつり
(紫波町日詰)
【実見】

・公開太鼓練習(囃子披露:一番組、橋本組) @日詰商店街

(併催)旧紫波町役場解体イベント(郷土芸能披露等)・日詰さんさん朝市・サプライズ花火
二戸まつり
(二戸市福岡)
【実見】

・置山(ただし人形と背景・岩・波のみ)
頼光鬼退治/羅生門(二戸まつり実行委員会)
※背面は市内各神社所蔵の羅生門・渡辺綱関連の額絵馬とともに
  @シビックセンター
・呑香稲荷神社六角神輿、絵巻物、大絵馬8枚展示 @ショッピングセンターニコア

・「在八祭り」として置山公開、囃子披露
安倍晴明邪気払い〜疫病退散〜/かぐや姫(在八町内会)
※小太鼓4・大太鼓1、マスク着用で演奏
※通りに武者絵の角灯篭設置
※周知無し(当日報道)、来場は二戸市民に限定


・音頭による門付け(愛宕山車他)
・「広報にのへ」でお祭り特集10ページ PDF
岩泉大神宮祭典
(岩泉町)
不明
熊野神社例大祭いしどりやまつり
(花巻市石鳥谷町)
【実見】

・回顧展(ポスター、映像、写真、山車絵手拭い、山車模型)
 昭和55年からの写真入りポスター、昭和62年・平成2年の絵紙ポスター、平成14年以降の絵紙ポスター
 昭和53・55年、平成5年及び最近の映像
 写真:中組の歴代(平成10年以降)、他はおおむね最近5年程度
 平成26年以降の各組の手拭い
 中組平成30年山車模型
 中組の音頭扇子『碁盤忠信』『四条畷』他
 中組番付原画(平成12年『鏡獅子』)

 @小さな百貨店ぷらっと(例年の祭典本部後ろ)

・太鼓と音頭の披露(全組、上記催事最終日)
志和八幡宮例大祭
(紫波町上平沢)
不明
花巻まつり
(花巻市)
【実見】

・置山‐縮小山車‐
◎加藤清正虎退治之躰/鯉の滝登り(上町) @まちなかビジターセンター前

・縮小山車運行
◎アマビエ(あさひ組) ※見返し無し、電球吊るし土日夜運行、太鼓付き

・台車虫干し、囃子披露
◎コロナ退散連獅子之躰(東町)

・回顧展「集まれ!神輿半纏」 @鳥谷ヶ崎神社参集殿
・回顧展(歴代うちわ、写真、模型等) @上町商店街はなまるカフェ
盛岡八幡宮例大祭
(盛岡市)
【実見】

・置山(前年他地披露品再作、盆綱の上から)
◎矢の根/(さんさ踊り):記念番付(A4サイズ)配布  ※「さんさ踊り」は既存の展示品の流用
・回顧展(絵紙原稿、映像、観光協会歴代絵紙・手拭い・H12以降のポスター、火消道具)
 紺屋町よ組絵紙原画(丸橋忠弥S6、矢の根 曽我五郎S8、和藤内S31、鏡獅子S43、日本銀次S50、暫S52、和藤内S56、小鍛冶屋台S58)
 紺屋町よ組写真昭和31年(和藤内/酒井田柿右エ門)
 昭和49・56・59年の映像(実見分)
・記念品販売(大正期の絵紙冊子、川島圭さん筆の山車絵絵葉書)
・小桜製作ワークショップ
・太鼓と音頭の披露
 本来の祭日の前後の週末に開催(前半は館内・後半は野外)
 盛岡観光協会、の組、城西組、一番組、よ組
 出演者はマスク・シールド等着用

 @プラザおでって

・山車風の提灯装飾 @桜山神社

・盛岡八幡町疫病収束祈願山車運行(後日)
◎矢の根/金太郎(もりおか八幡界隈まちづくりの会)  表は上記置山/見返しは観光協会R1
 ※事前告知無し(交通規制案内程度)
 ※囃子はい組、半纏は2種類(い組・八幡町)、神職が御幣を手に先導
 ※表裏の提灯は協賛者の名前・社名
 ※参加者全員が透明マスク着用/掛け声はマイクを手にした引き子のみ/大太鼓は片面のみ(向かい合わない)
 ※飲食は休憩時のお茶のみ
 ※人混みは多々生じたが、観客全員がマスク着用
 ※音頭は、表裏の演題歌詞(過去のもの)を含み、各回違う歌詞を使った模様
 ※絵紙(A4サイズ、上記記念番付と同じ絵)を沿道の観客に配布
 ※運行中盤以降電飾(梯子の端に支え)
 @八幡町〜肴町アーケード:11/1(日)15:00〜17:00
武内神社例大祭
(二戸市堀野)
不明
かるまい秋祭り
(軽米町)
不明
(祭典関係団体への資金援助)
土沢まつり
(花巻市東和)
【伝聞】

・後日、早池峰大償流土沢山伏神楽の奉納 @鏑八幡神社
・囃子披露(中下組、詳細不明)
小鳥谷まつり
(一戸町小鳥谷)
【伝聞】

・神社境内での山車音頭や踊りの奉納
金勢祭
(二戸市石切所)
【伝聞】

・神社境内のみの開催(みこし展示、手拭い販売等)
※ポスターは例年並みに製作
久慈秋祭り
(久慈市)
【伝聞】

・山車上での太鼓披露(巽町組) @やませ土風館
・田屋町組みこし @久慈拓陽支援学校(後日)
山田まつり
(山田町)
【伝聞】

・参加者30人程度の神事、不動尊神楽の奉納
大槌まつり
(大槌町)
【伝聞】

・芸能8団体によるゲリラ披露
 @おしゃっち、災害公営住宅
豊城稲荷神社例大祭川口秋祭り
(岩手町川口)
不明
八幡宮例大祭くずまき秋祭り
(葛巻町)
【伝聞】

・ミニ山車の製作、公開
◎助六/アマビエ(新町組)

・回顧展(映像など)、太鼓体験、縁日
 @旧遠藤邸跡地
江刺甚句まつり
(奥州市江刺)
【伝聞】

・ステージイベントに縮小(入場500人に制限、定点カメラによるライブ配信)
 @えさし藤原の郷
沼宮内稲荷神社例大祭岩手町秋祭り
(岩手町沼宮内)
【伝聞】

・芸能及び音頭の奉納 @沼宮内稲荷神社境内
 山車組はマスク着用で各3名程度の参加、音頭1本ずつ(太鼓は無し)

・常設格納庫での記念撮影や囃子披露(ろ組、の組等)
奥州前沢春まつり
(奥州市前沢)
【実見】

・「奥州前沢秋まつり」としてステージイベントに縮小
 チラシと団扇配布
 42歳厄年連の山車(前後2基)を展示
 地元2団体(42歳厄年連・25歳厄年連)は3ステージ、他は1ステージでアンコールあり
 観客は声援禁止で拍手のみ
 入場ゲート設定(岩手県民限定)、場内飲食制限
 @前沢ふれあいセンター駐車場
釜石まつり
(釜石市)
【伝聞】

・芸能6組の奉納 @尾崎神社
・例祭後の神輿の見送り @釜石港
・芸能団体間オンライン対談の配信


※本稿とりまとめに当たっての山車の区別

◎ミニ山車:そのまま路面に乗るもの
◎模型:テーブルに乗せられるもの
◎縮小山車:従来の人形を、従来より少なく使って作ったもの
◎置山(おきやま):従来サイズの山車、あるいは従来サイズの一部(台車等)を略したもの


(備 考)

○冬季実施の本県の祭礼では、黒石寺蘇民祭(奥州市)・大東大原水かけ祭り(一関市)がすでに中止を表明
○当該年秋季の神社祭礼のうち、「神社境内で」あるいは「社殿・神楽殿で」郷土芸能が演技奉納するタイプの催事は、告知無しではあったがおおむね例年通りに決行された


(参 考)青森県
祭典名
(所在地)
令和2年の状況
野辺地祇園祭り
(野辺地町)
【実見】

・青森県内山車行事フォーラムの開催(非公開⇒映像公開)
 比較素材:下北(佐井村)の山車、鰺ヶ沢の山車、八戸の山車

・回顧展(歴代ポスター・写真)
※一部ポスターは来場者に配布

 @JR野辺地駅隣 観光物産センター
八戸三社大祭
(八戸市)
【実見】

・「昭和の山車再現」として置山(縮小山車)を展示、昼夜40分ずつ囃子実演
◎波山車『悪疫退散/大願成就』(神明宮附祭組共作)
◎岩山車『鍾馗/釣りをする鬼』(おがみ神社附祭組共作):現在JR八戸駅に展示
◎高覧山車『義経千本桜狐忠信/五条大橋』(新羅神社附祭組共作)
◎縮小山車『花魁道中』(吹上山車組) ※見返し無し、運行込み

 @マチニワ(市内十三日町)

・山車模型(過去の出場作品模倣)の展示 @はっち(市内十三日町)
さんのへ秋祭り
(三戸町)
【伝聞】

・置山公開、囃子披露(後日) @六日町町内会館
◎加藤清正虎退治/アンパンマン(六日町町内会)
青森ねぶた祭り
(青森市)
【伝聞】

・一部団体による運行(詳細不明)

・青森市民ナヌカ日ねぶた
 ねぶたの家ワラッセ展示品活用による
 入場2000人以内に制限
五所川原立佞武多
(五所川原市)
【伝聞】

・誠和会が小型ねぶた『鬼』(1.2m)を自主運行
五戸まつり
(五戸町)
【伝聞】

・縮小山車展示(後日) @ハピネス五戸(特養ホーム)
◎新・里見八犬伝(荒町自治会)


(参 考)秋田県
祭典名
(所在地)
令和2年の状況
土崎港曳山まつり
(秋田市)
不明
角館祭りのやま行事
(仙北市)
【伝聞】

・置山の製作、公開
◎歌舞伎十八番 不破
◎八重垣姫(謙信・勝頼と3体)
◎義経八艘飛び
◎一の谷双葉軍記須磨の浦
◎信貴山城の戦い




(お願い)

※「不明」及び「抜け」は書き手が全く知らない部分ですので、ご教示下さい。誤り・補足についてもお示しいただけると幸いです。



文責:山屋 賢一
(岩手県紫波町在住 高校教員)


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