二戸まつりと二戸市の山車行事

 

 

 

『山中鹿之助』(福岡:愛宕)
 岩手県二戸市では8月下旬から9月下旬にかけて、実に一週間毎に山車祭りが行われている。このうち市内中心部「福岡町」の三社大祭は9月の第一週末に3日間開催され、「二戸まつり」の名で知られている。呑香(とんこう)稲荷神社・愛宕神社・秋葉神社の三社の祭礼を一気に行う形式は、三戸や八戸など青森県南と同様である。二戸まつりに出場する風流山車の台数は毎年9台で、岩手県北部では最も多い。台数でいうならば、二戸まつりこそ「岩手県北最大の山車まつり」である。

 初日は稲荷神社のお通り、中日は愛宕神社、最終日は秋葉神社のお通りである。山車は神輿行列に随行して午後いっぱい運行する。個別に動いたり夜間に動くような風習は現在は行われておらず、お通り以外での山車の運行(集合場所への移動、解散場所からの移動)はものすごく窮屈に行われている。

県北最高台数とは言ったものの、出場する山車の大半は業者発注ないし借り上げによって構成されている。福岡下町に端を発する「平三山車(平下信一さんによる風流山車)」は岩手県北各地に見られるが、福岡の秋祭りには最多台数の5台が出場している。発注先の分布は、長嶺・田町・秋葉(下中町)・愛宕・市役所と、福岡北部に綺麗に並んでいる。山車奉納地域中最南に位置する八幡下の「は組」は、隣町の一戸から山車飾り一式を借り上げ、両者の中間に位置する五日町・在府小路八幡・川又が地元町内手作りの山車を出す。

 

 

『森蘭丸』(福岡:下仲町秋葉)提供写真
 初日の稲荷神社のお通りでは、平三人形が5台続いた後に盛岡流の五日町、川又、在八、八幡下が続く。北から南の隊列である。2日目、3日目は逆順で、最北の長嶺の山車が最後尾に繰り出す。かなり早足ではあるが、9台の山車の競演は各系統の味わいをそれぞれ見比べながら楽しめ、とりわけ平三人形というものを最も系統的に理解できる。残念ながら山車を止めて音頭上げができないので、運行開始時に上げるところもあるにはあるが、ほとんどの山車組で運行中に、お囃子と並行する形で上げている。夜間の山車運行はほとんど無く、流し踊りを主とした市民パレードが花を添えている。

 

 
 二戸まつりで見られる郷土芸能の中では、初日に行われるなにゃどやら(南部領北部の代表的盆踊り)の流し踊りが圧巻である。毎年二戸市内の団体はもとより、九戸郡・二戸郡・青森県三八地方からも珠玉の顔ぶれが浴衣姿に太鼓をそろえる。太鼓を勇ましく片面打ちする二戸のなにゃどやらは、初心者でも気に入るような派手さがある。坂本七つ踊りはお通りのお供で、合間あいまに市街の門打ちも行っている。他に類例を見ない独特の古態があり、近年は杵振り等が非常にスピード感よく格好よく演出されている。筆者自身は確認していないが、95日には「神代神楽」が稲荷神社に奉納されるらしい。この神楽は戦前に国指定文化財の候補に挙がったほど格式の高いもので、岩手県内の主流を占める山伏神楽とはまったく趣を異にする珍しいものである。

 福岡町の三社大祭のほかにも、二戸市内各地域の祭りで山車が出ている。二戸という町がいかに山車というものを愛しているか、山車を通して地域がいかに連携しているか、二戸を訪れて感動させられることは多い。


『見返し 雷電為右衛門』(福岡:長嶺)提供写真
二戸まつりの山車組

[
長嶺町内会祭典実行委員会]平三人形発注による風流山車。その年に考案される平三山車の趣向のうち、最も話題性の高い演題を飾る傾向がある。高さ・躍動感が十二分に活きた飾り物であり、表裏一体の趣向とする年も多い。照明が各町の山車に点っていた時期は、長嶺の電飾が格段に素晴らしかったともいう。復活当初は、一戸の野田組から山車飾り一式を借り、太鼓は一戸以南と同じように前後に分断されていた。

 

[田町町内会]平三人形発注による風流山車。二戸まつり出場組では唯一の単独町内山車組であり、平三人形発注先でも唯一、町内の工夫で「添え付け飾り」を行っている。開閉式の軒花(馬簾)、白や黄色の牡丹は田町で改めて供え、松は明るい緑に着色して飾る。大太鼓を後ろに配す定型を貫き、バランスと色彩のよさを感じさせる山車組である。180戸の小さな町の意地が10年の苦節を乗り越え、昭和58年にギャロ町の象徴『自来也』を奉納した。以来毎年地域一丸となって山車行事に励んでいる。

『見返し 剣豪平手酒造』(福岡:田町)提供写真



[中町秋葉町内会]平三人形発注による風流山車、平三山車のもともとの本拠である。人形数を平均で2体前後に絞った落ち着いた構想が多く、人形をしっかり見せる盛岡的美意識がある。同時に、中央に大太鼓を配してダイナミックに叩く「太鼓山車」の風貌もあり、よい意味でも悪い意味でも福岡町的風流山車の典型といえる。

 

[愛宕山車]平三人形発注による風流山車。躍動的な茶の馬を用いた槍遣いの武者ものがよく出る。特に『山中鹿之助』が再三にわたって登場し、壮大な構図、ダイナミックな様式美を見せる。酒蔵「南部美人」のロゴが雪洞や飾りに入る年もある。

 

[二戸市役所お祭り同好会]平三人形発注による風流山車。行政が山車を出すケースは、岩手県内では盛岡・花巻とここくらいである。市を挙げて山車文化を応援する心意気が嬉しい。演題は年によって様々だが、さすが市役所だけあって、無様なものはめったに出ない。平三人形山車全体の平均より、やや上にあたるような作品が多い。

[五日町若者連]盛岡風の人形を使う手作り山車組。独自のこだわりのもと山車作りに6月から取り組み、盛岡山車の隠れた名手として一部では評価が高い。飾り方はやや派手だが、きちんと和紙による桜を使い、牡丹も紅白を分けて飾る。からくりを備えた『道成寺』の清姫を始め、『連獅子』『車引き』『和藤内』といった盛岡周辺でおなじみの歌舞伎演題を手がける、県北では希少な存在である。地元九戸城の英傑九戸政實の勇姿を連作で描くなど、地域伝承に密着した時期もあった。見返しも立派で、まるで表の飾りのような大振りの人形を飾る。

『見返し 勧進帳』(福岡:五日町)提供写真
(平成以降の歴代演題)H21:直江兼続/助六  H20:碇知盛/滝窓志賀輔  H19:加藤清正/押戻し  H18:川中島/車引き梅王丸  H17:義経八艘飛び/勧進帳  H16:新撰組/相馬大作  H15:和藤内の虎退治/景清  H14:車引/碇知盛  H13:衝天九戸政實  H11:九戸政實/蜘蛛の拍子舞  H10:滝窓志賀輔  H9:八岐大蛇/景清  H7:京鹿子娘道成寺/蛇体の清姫  H8:連獅子  H5:安倍貞任  H4:連獅子  H3:明智光秀  

 

 

[在八町内会]ここ数年で頻繁に作風を変えている自作組である。平成11年ころまでは盛岡風の大人形であったが、その後平三山車程度まで人形の数を増やし、大きさを縮小した(平成15年『本能寺の変』など)。近年は八戸などでよく見られる菊人形風の頭を使うようになり(平成16年『加藤清正』など)、牡丹の下に彫刻を施すなど、青森県南の山車の雰囲気に近づきつつある。作風の変遷とともに、演題開拓への貪欲な姿勢が見られ、地域史を山車人形へと掘り起こす試みも積極的に行っている。

(平成以降の歴代演題)H21:仁田四郎忠常  H20:竜神観音  H19:武田信玄出陣  H18:田中館愛橘なまず退治  H17:孫悟空/常盤御前  H16:加藤清正/汐汲み  H15:本能寺の変/田中館愛橘夫妻  H14:七福神宝船  H13:九戸政實  H12:酒呑童子  H11:鞍馬山/北条時宗の笠懸  H10:阿仁のマタギ  H9:石川五右衛門の釜茹で  H8:工藤祐経  H7:児雷也/たつのこたろう  H6:竜虎の戦い  H5:和藤内虎退治  H4:岩見重太郎  H3:九戸政實

 

『見返し 里見八犬伝』(福岡:川又)提供写真
[ 川又連合]手作り感の強い人形を使い、アイディアと派手な飾り方で個性を強調している。何度も繰り返し作られる演題も多く、馬をよく使う。藤の花が桜・紅葉から下がっており、ピンク・オレンジといった原色の色彩が山車を覆う。表札は白で、カラーモールを縁に巡らせている。十八番の演題には、小玉虫の乗る船を備えた『那須与一』、息子重盛の諫言を交わすため鎧の上に袈裟を着た『平清盛』、豊臣秀吉の華麗な鎧姿を飾る『小牧山合戦』などがある。『太田道灌』『上総介広常の狐退治』など、岩手を広く見てもこの組しか作っていない珍しい演題もある。復活当初、引き子は9組中最多であった。

(平成以降の歴代演題)H21:羅生門/鯉金時  H20:九尾の狐/水滸伝の張順  H19:義経八艘飛び/鬼若丸  H18:佐々木高綱/里見八犬伝  H17:山内一豊/加藤清正  H16:小牧山の秀吉/花咲か爺さん  H15:巌流島/加藤清正  H14:那須与一/大石蔵之助  H13:山内一豊  H12:富士川の功名  H11:平清盛/大石蔵之助  H9:那須与一/花咲か爺さん  H8:山内一豊  H7:清盛と重盛  H4:明智光秀  H3:那須与一/花咲爺  H1:巌流島  S60:吉良上野介

 

[は組]一戸町本組、2年間の平三人形を経て、現在は一戸町上町組から借り入れている。その年の人形でないものを借り入れる慣例があったが、近年は一週間前の一戸祭りの山車をそのまま上げることも多くなった。『釣鐘弁慶』『藤原純友』など、は組用に新たに作られた人形もある。太鼓類はすべて人形の前に集めたトラック台車だが、本組と交流のあった平成5年までは盛岡周辺と同じ囃子方前後配置の形態だった。

(平成以降の歴代演題)H21:加藤清正/豊臣秀頼  H20:真田幸村/由利鎌之助  H19:弁慶立ち往生/鞍馬山  H18:児雷也/藤娘  H17:瓶割り柴田/お市さま  H16:九戸政實/豊臣秀吉  H15:藤原純友/一寸法師  H14:桂川力蔵/前田まつ  H13:八幡太郎義家  H12:釣鐘弁慶  H11:岩見重太郎/鶴の恩返し  H10:紀伊国屋文左衛門  H9:和藤内/もののけ姫  H8:滝間戸の志賀之助  H7:里見八犬伝/宮本武蔵  H5:朝比奈三郎  H4:西塔鬼若丸  H3:九戸政實/亀千代



 

<詳細日程>

『見返し 森の石松』(二戸市役所)提供写真
9/1
pm1:30
 各組山車 八幡下集結(主に町の北部から巡行、八幡下駐車場にて1時間待機)
pm2:30
 呑香稲荷神社神輿渡御行列八幡下出発し北上
・坂本七つ物
<>長嶺山車
<>田町山車
<>秋葉(下町)山車
<>愛宕山車
<>市役所お祭り同好会山車
<>五日町山車
<>川又山車
<>在八山車
<>は組(八幡下)山車
pm4:30
神輿行列解散、は組山車Uターン
pm6:00
坂本七つ物、稲荷神社付近門打ち
pm7:30
なにゃどやら流し踊り商店街南下

福岡八幡下は組山車全景(提供写真)

9/1
pm2:30
愛宕神社神輿渡御行列長嶺出発

9/1
pm1:00 奉納呑香稲荷神社神代神楽 呑香稲荷神社神楽殿
pm2:30
秋葉神社神輿渡御行列町内南下開始(
この日のみ上米沢しし踊り随行)
pm5:00
二戸市郷土芸能競演会 馬渕川特設ステージにて


 

二戸市内の山車行事悉皆調査

 

薬師堂米沢 5/34

IGR斗米駅から徒歩15分程度。毎年GWの時期に平三人形を飾った山車1台を奉納する祭りがあり、地元では「やくしっこ」と呼ぶ。山車は3日夜7時より宵宮の運行、翌4日の本祭には午後2時から4時にかけて薬師堂周辺の通りを巡行する。照明は山車の前後にライトを2本ずつと、囃子の乗る山車の前の舞台を提灯で照らす。(平成1516年見物)

 

 

八坂神社金田一 8/171819

平成14年を最後に山車行事は中断し、現在は金田一太神楽・金田一七つ物などが町内を回って演じている。以前は平三人形や自作の人形で飾った山車2台が出ていた。昭和30年代には絵紙も出していた。

 

 

天満宮(上米沢 8/最終土日)

平三山車のうち最小のものが1台運行するという。写真確認。

 

 

武内神社堀野 9/2土日)

平三山車が2台、馬渕組と三区連合から出る。どちらも二戸まつりに用いた人形をやや場面を縮小して上げており、馬渕組では大太鼓を後ろに配して盛岡風に据えている。東組(東側若連)は一戸の西法寺組から表裏の人形を買い上げ、桜など自前の飾りを足して牡丹の絵が入った台車に飾って引く。二戸市内では際立って盛岡色が強く、囃子は盛岡、沼宮内などとほぼ同じである。馬場・大畑は市内在八町内会の人形を買い上げて飾る。大太鼓を人形の前に、しかもかなり高い位置に据えるので、稀に人形が見えなくなる。IGR斗米駅付近の十字路に、お通りの中盤午後4時頃に差し掛かり、また付近のショッピングセンター街(二コアなど)にも山車を乗り上げる機会がある。
(平成1316年見物)

『碇知盛』(石切所:中央)

 

神明社(浄法寺 9/2週末)

平成18年から二戸市に編入された旧浄法寺町の秋祭り。9月中旬の神明社大祭にて運行される上組、仲の組、下組の山車。いずれも人形・装飾を一戸に委託して作っている山車であり、上組は西法寺組(前年の人形)、仲の組は上町組(その年の人形)、下組は橋中組(その年の人形)が担当している。丈、幅ともに一戸の山車よりも小ぶりで、人形配置もそれに合わせて改変されているが、とりわけ上組の人形は一戸町における様相とかなり異なる。各組とも白黒の絵紙を祝儀札とする習慣が残り、音頭も盛岡風で合いの手に太鼓の乱打を入れる。初日と最終日の神輿渡御還御に付いて合同運行を行い、門付け運行も頻繁に行っている。

 

 

枋ノ木神社石切所 9/3土日)
二戸駅前地区の秋祭り。川原橋通りの平三人形山車、枋ノ木中央と前田組の盛岡山車(五日町より表裏人形各1体ずつを借りて飾る)・駅前一区の高覧山車(三戸町下二日町より)・川原町の太鼓屋台が昼頃駅付近をパレード。台数は他の地域を圧倒する多さだが、いずれもおのおのの借入先と比較して2/3程度にダウンサイジングされた小ぶりな山車である。前田組・中央町内会は背面にご神体の男根を飾る。金精神のお祭りなので、直接的なセックスアピール、下ネタの類が神社境内の雪洞など諸所に見られる。二戸駅に「なにゃーと」が併設されてからは、前田・中央・一区の3台の山車がなにゃーと内に納められるようになった。
(平成14年見物)

 

 

日吉神社坂本 10/第2土日)

手作り山車1台が運行するという。写真確認。

 

 

※平三風流人形の山車 紹介ページ

※盛岡流の風流山車行事全事例(市内一部山車組該当)

 

 

文責・写真:山屋 賢一

(掲載写真の一部を読者さまに提供いただきました。御礼申し上げます。)

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