岩手県八幡平市 大更八坂神社例大祭山車行事(7月15日)

岩手県八幡平市 大更八坂神社例大祭

 



袢纏が3種くらい混じる西根同志会の引き綱hspace=30

 盛岡地方の山車は主に秋のお祭りに出ますが、西根(にしね:八幡平市西根地区)には何件か、真夏に盛岡山車を出すお祭りがあります。中心市街の大更(おおぶけ)では7月15日が八坂神社のお祭りで、西根町山車同志会で山車を出します。
 この催事は、私の学生時代に発刊された「いわてイベント年間」で知りました(当時1冊500円、浄法寺とか軽米・千厩の山車もこれで知った)。掲載されていたのは『鏡獅子』の山車(観光協会平成12年借上)で、他では両側に桜が付いたものをここでは片側桜・二段松で出しており、当時の私はそこに古風と味を期待しました。平成14年『景清』の一番組での写真見物を経て、平成15年『里見八犬伝芳流閣の場/汐汲み』が大更山車実見の最初です。

 山車1台・運行開始は朝で、日中いっぱい町内を巡ります。照明は付かず夕方に小屋に入り、夜の運行はありません。初めて見に行った頃はカケス(山車の格納庫)は無かったように記憶していますが、「組み上げ・解体とも祭りの前後1日でやるから工場の車庫から出発する」みたいな話を聞いた憶えがあります。現在は駅から見て町への入り口に当たる付近にカケスがあり、朝8時頃ここから引き出すようです。
 人形・装飾は長らく借り上げで、盛岡観光協会やその関連団体(の組・三番組など)が過去の盛岡祭りに出したものや、当年春の黒沢尻火防祭(北上市)に出たものが使われます。笛や太鼓・音頭の上げ方も盛岡とほぼ同じで、当地ならではの個性はほとんどありません。各地に山車を見に行く私のような者にとってそれは目新しさに欠けるので、「オフシーズンに盛岡の定型を徹頭徹尾守った山車が出るのは尊い」「そもそも山車の借り上げが名作の出張であるなら、盛岡の作法を完全再現することこそがこの山車行事の大事な部分なのかも」等々と長らく考えてきました。

令和3年『荒獅子男之助』山車がいちばん映える夕暮れ時

 それでも何度か訪れるうちに、当地なりの個性を見つけられました。飾り台の高さや幅が他と少し違うのか、『森蘭丸』(平成4年)・『紅葉狩り』(平成21年)・『荒獅子男之助』(令和3年)などで趣向の奥行きが抑えられ、人形の位置が少し変わったり独特の角度が付いたりました。(上記3例及び『関羽』(平成25年)や『鬼若丸』(平成29年)では、このことで趣向の迫力が増した)。他、背景が省かれることが特に見返しでよくあります。
 飾り方はあっさりで、桜が両サイドに下がった時期も他より短いようです。見返しには地酒「鷲の尾(わしのお)」の菰樽が乗り、前面に並ぶ提灯は当初は「西根会」のみでしたが、最近はスポンサーの名入りのものが表裏にたくさん並んでいます。絵紙はモノクロで、一般的なものより少し明るめの青。帯は無く、ポスターのように丸めて配った時期もありました。
 音頭から歩み太鼓に移行する時、大更では太鼓の端を早太鼓ほどの早いリズムで叩きます。あげ太鼓以外のマッチャはあまり聞かれません。音頭上げの名人がいて、節は上げ手によっては沼宮内風に聞こえます。袢纏は3種類くらい交じっていて、背中に鷲の尾の宣伝が入ったものもあります。

奉納相撲

 大体朝の10時半頃でしょうか、一回目の休憩を終えた山車が八坂神社(大更公園)の向かい側から出発します。ある年は郷土芸能目当てに朝から神社にいましたが、山車の太鼓が遠くから聞こえてきて心躍りました。平舘の岩手山神社山伏神楽や西根さんさ踊りなど郷土芸能は専ら午前中の奉納で、その後は子供たちの奉納相撲です。観客たくさんで応援も派手、相撲の健全な娯楽さを感じしみじみし、何より見る人もやる人もたまらなく楽しそうでした。午後からは歌謡ショー・新舞踊や演歌・民謡などが矢継ぎ早に披露され、夕闇が迫るほど盛り上がりを見せます。最後は大人の奉納相撲、余所者の私は残念ながらこの時間帯まで見通したことはありません。
 神社下の広場には的屋さんがみっちり出て昔ながらの村祭りの風情、これも夕闇迫り、浴衣姿の客が増えていくほどに映えてきます。

八坂神社より山車を(平成27年)

 このお祭りでは神輿は動かず、渡御の行列はありません。むしろ町中の人が八坂神社へ参拝・集って様々な催しを楽しむ形なのではと、私は感じています。そうした中で山車は、祭りの訪れを大更の隅々に知らせて回る。ゆえに大更の山車は、おおむね祭りの喧騒の外にあり、それがかっこよく、また「本来の姿」に見えなくもないのです。運行エリアに張られた注連縄は紅白の紐をよじってあって、所々に紅白提灯や造花がかかって華やかです。太鼓の音が近づくと各家々から人が出て、喜んで山車を迎え「じゃあ、八坂さんに行くか」となる(のではないかなあ…)。午前中は住宅地を回り、休憩をはさみつつ昼過ぎに商店街にかかります。音を頼りに探すのも楽しく、特にも夕方の、西日を正面に受けながら進む山車の姿はオススメで、美しく、懐かしい気持ちになります。
 ここ数年は、前日の14日にも「前夜祭」として山車を2時間弱出しています(音頭上げもアリ)。神社でもショーがありますが境内の出店は開かないので、やはり盛り上がりは当日の15日が勝るとは思います。

 江戸享保年間創建の大更八坂神社は以来300年余、鎮守として栄え、親しまれてきました。毎年7月15日(一時これに近い日曜に移したこともあったが、不評で戻した)、この神社にたくさん人が集って様々なものを共有し共感し、帰っていきます。それはコロナ禍に揺れた令和3年もほとんど変わらず、当年に本寸法で行った岩手唯一の山車祭りとなりました。奇しくもそれは、他の祭典に1カ月半先駆け「山車凪ぎ」の中披露される大更山車の在り方を象徴していたように思います。
 山車はいったん断絶を経て昭和52年に「岩中酪青年部」名義で復活、以降3作ほどは盛岡油町から人形部品を借りて町内で組み上げ、絵紙も墨書のオリジナルのものを出しました(S53八岐大蛇、S54暫、S56地雷也)。…そんな話や資料もようやく見えてきて、もっともっと深くこの催事を知りたいこの頃。今後も末永く、古風・素朴な素敵なこのお祭りを見に大更に出かけたいと思っています。


(平成15・17・19・26・27・30・令和3・4・6年見物)



<詳細日程>毎年7月15日
(14日:山車は午後から夕方にかけて出るが、例年告知の時刻より早く発し、早く入る)
am9:00前  山車出発・記念撮影
am9:30頃  山車、八坂神社着・奉納
am11:00頃  八坂神社境内にて芸能奉納・奉納相撲少年の部(地区対抗)
pm2:00頃  山車のメインストリート運行・西根さんさの街中披露
pm6:00頃  練り神輿出発(大更駅前 2基)
pm7:00頃  山車納車・神社では演芸が終わり、奉納相撲成人の部開始

アクセス:
@JR花輪線「大更駅」下車 八坂神社までは徒歩10分程度
A岩手県北バス平舘方面行き・八坂神社前は「大更公園」、山車小屋最寄は「フーガの広場」下車
※おらほの温泉(元 西根温泉ゲンデルランド)が見物エリアのすぐ近くにあります、1時間に1本程度バスあり



【山屋実見の大更西根山車同志会山車】

 平成15年 『里見八犬伝芳流閣の場 /汐汲み』
 平成17年 『鞍馬山 /花咲爺』
 平成19年 『五條大橋 /錦祥女』
 平成26年 『菅原伝授手習鑑車引き /三番叟』
 平成27年 『雨の五郎 /滝夜叉姫』
 平成30年 『勧進帳 /桃太郎』   ※見返し音頭新作
 令和03年 『荒獅子男之助 /金太郎』
 令和04年 『鍾馗 /一寸法師』   ※見返し新出し
 令和06年 『毛剃 /かぐやひめ』

文責・写真:山屋 賢一

(掲載写真:@町内巡行・複数の袢纏が混じる引き綱のようす:山車は平成26年『菅原伝授手習鑑車引』
A山車が最も映える夕暮れ時・通りには銭湯が:山車はコロナ禍の令和3年に通常運行された『荒獅子男之助』
B出店が密集する八坂神社境内・奉納相撲
C山車が神社前に来たところ:山車は平成27年、見返しの『滝夜叉姫』)

※南部流風流山車行事全事例へ

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