秋田県平鹿町 浅舞八幡神社祭礼

 

 

角館風の『羅生門』

 平鹿町浅舞(あさまい)では、九月中旬の八幡神社の祭典に十基あまりの山車が繰り出される。うち一台は「踊り山」といって、秋田民謡の手踊りを演じるための「人形のない山車」である。残りはすべて人形を備えた山車であり、土崎や角館には見られない「風流」の二文字が外題に冠されている。

 浅舞の山車人形は、主に土崎みなと祭りで使われた人形を持ち込んだものだが、土崎のような裸人形に仕立てる例は少なく、きちんと地元で衣装を作って着せている。同じ人形でも土崎とは異なる様相を呈し、要は著しく手を入れて人形を仕立て直している。結果、他地のように標準的に使われた土崎人形を見られ、地元土崎では感じがたい土崎人形の真価に触れられる。他に角館と、山形の新庄から人形が持ち込まれているが、同様に十分手が入って「浅舞の山車」になっていた。

土崎風の『弁慶立往生』

 囃し方は、角館が人形飾りの下、土崎が曳山の裏側にそれぞれ乗り込むのに対し、浅舞の場合は山車と歩調を合わせながら歩いてはやしている。山車の後部に雨よけの簡素な屋根をかけて太鼓を設置しており、秋田県内の例よりも、むしろ山形の新庄の形に似ている。奏でる旋律そのものは、しかしながら新庄の面影は全く無く、広く秋田地方に見られる多種類の音曲で構成されている。角館の飾山ばやしなどがかなり忠実に再現され、一方で手平鉦の効いた浅舞独特の音曲も強烈に耳に残った。

 浅舞の山車は、角館や土崎のものと比べてはるかに奥行きの広い構成であるが、これは明らかに新庄の側面に飾りをつくる手法に影響されたもので、中には新庄そっくりに横から見るための山車を作っている山車組もあった。多くは横から見るべきか正面から見るべきか判然としない仕上がりだが、共通しているのは「送り人形」にあたるものが見られないことで、単に新庄の模倣というだけでなく、秋田広域の山車の流れと県境を越えた山車の流れとが実に巧妙に、効果的に混交されている。土崎では単に脇飾りに過ぎなかったおとなしい表情の人形も、浅舞では実に豊かに喜怒哀楽を見せている。他県にもこのような「多系統混交型の山車祭り」があるが、(岩手では軽米町や千厩町など)、浅舞には特に強い独自性があり、見に来たものには大変ありがたい。

新庄風の『毛剃九右衛門』

 山車は祭礼期間中、町内を回って門付けを行う。特に合同運行の機会を設けるわけではなく、たまたま二日目の夕方頃どの山車組も中心街に差し掛かる、というだけである。町内各所に角館に似た張番所が設けられ、かつて秋田にも間断の無い山車文化の帯が存在したであろうことを、想像させてくれた。



(付記) 〜平鹿町浅舞には、横手市からバスに乗って行くことができます。祭典期間中は浅舞のメインストリートが終日全面車両通行止めになっていますので、臨時に設けられたバス停のうち、「浅舞覚町」にて下車するとよいでしょう。



※秋田の山車・山形の山車

文責・写真 : 山屋 賢一

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