秋田県横手市 横手雪祭り

 

 

 横手市の梵天には、独特の装飾「頭飾り」を毎年趣向を凝らして作り変え、評価制度を設けて等級を争う風習があります。梵天(ぼんでん)は秋田県広域に見られる民俗行事で、丸太木一本を軸にした大きな御幣に布でこしらえた繭玉を乗せ、これをその年の作物に見立てて神様にお供えし、豊年を予祝(前祝い)します。横手市の場合は梵天の下に暖簾をかけ、繭玉の上に頭飾りをつけます。2月16日のボンデンコンクールで頭飾りに等級をつけ、翌17日には旭岡山神社に奉納するため、朝から正午頃まで行列を組んで市内を練り歩きます。

ぼんでん行列

 17日の朝9時ころ、横手駅に程近い横手市役所前には各町内自慢の梵天が集まり、見物する人でにぎわいます。頭飾りの意匠は様々ですが、正月に近いこともあってかその年の干支を意識したものが多く、筆者の見物時には「孫悟空」や「猿蟹合戦」など、猿をつくったものが多く見られました。ストーリー性なくただ猿を飾る例もありましたし、特賞を取った飾りは桃太郎のお供として傍らに猿を描いていました。頭飾りには軽さが求められるので、発泡スチロール切片や紙を使って作ります。神社仏閣をこのような軽い素材で精巧に作る例も多く、日光東照宮のような全国区のものから地元の仏閣まで、とにかく技術を見せる飾りとなっています。鎧兜を専門に作る町内もありますが、やはりこの方向性によったものでしょう。

 筆者が特に期待して見に行った「山車に通ずるような風流人形の飾り物」は意外に少なく、桃太郎を除けば「弁慶」「佐々成政」「猩々」「連獅子」の4つだけでした。衣装を上から着せるものもあれば、衣装鎧込みで彫り込んでしまっているものもあります。顔は、後々破損したものを見たところ、発泡スチロール彫刻だとわかりました。

 あとは丁印のような家紋系の単純な図形を作ったもの、それから博多祇園山笠や秩父夜祭、岩手では花巻祭など、全国の著名な曳き山まつりの山車をミニチュアにした頭飾りもありました。花巻祭の頭飾りには、提灯を持った稚児を添えて表に連獅子、裏に藤娘をしっかり飾っています。

恵比須俵

 梵天行列は朝10時に市役所前を出発します。

 お供物として梵天のほかに「恵比寿俵(えびすだわら)」というものがあり、これは米俵を使った樽神輿のようなものです。猿の縫いぐるみや切り紙などの飾りがつき、なかには人形みこしのような外観のものもありました。恵比寿俵、子どもが担ぐ子若梵天(頭飾りはアニメのキャラクターが主)、そして各町内の梵天が続きます。

 囃子は無く、ただ「じょいさー、じょいさー」と声をかけながら、大勢で担いだり、たまに竿灯のように1人でバランスを保って担いだり。約2時間かけて正午過ぎに旭岡山神社の鳥居をくぐります。途中方々にぶつけたり倒してしまったりするため、神社に到着するころにはほとんどの頭飾りがどこかしらを破損しており、完全に形を失ってしまうものもあります。見物に行かれる皆さん、写真は早めに撮りましょう。

はずされた頭飾り

 神社境内で頭飾りと暖簾をはずし、梵天は繭玉だけになって拝殿での奉納先争いを演じるわけですが、この佳境の場面は近くでは危険で見物できないので、付近の農道から遠望することになります。先争いの喧騒のさなか、雪に覆われた神社の参道にはずされた頭飾りがボツ、ボツとたたずむ姿には、なにか余情を感じさせてくれます。

 アクセスはJR北上線横手駅から。食べ物飲み物では、甘酒が「あまえこ」の名で売られていて可愛らしい(お酒が苦手なので買えませんでしたが…)。神社境内の食べ物屋台で、なぜか梵天の模型も売られていました。名物の目玉焼き入り福神漬け添えの横手焼きそばは、駅近くの「ふじわら」というお店のものがおいしかったです。吉野家みたいに並・大盛り・特盛があって面白い。横手では喫茶店やレストラン、駅の立ち食いそばなど食べ物屋さんならどこでも、横手焼きそばが食べられるのだそうです。乗り継ぎの方はホームで売っている焼きそばを食べられる…。

2/16および17以外で梵天をご覧になりたい方は、市内かまくら館の常設展示梵天をご覧ください。


写真・文責:山屋 賢一

※秋田の人形山車行事

 

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