青森県三戸町 三戸三社大祭

 

 

平成13年見物『名月赤城山』

 青森県の南部地方(旧南部藩領の三八地域)には、ひとつの祭りで十数台と大量の山車が出るケースがいくつもあります。八戸から持ち込まれた「借り上げ山車」と共に、地元手作りのやや小型の山車がそうした行事を支え、盛り上げているようです。三戸高校や野辺地西高校など学校で山車を作ってお祭りに参加する例もあり、知恵蔵頭の山車用マネキン(菊人形風)を使うこと、飾りもののほとんどを既製品の造花にして業者発注等しやすくしていることなどが比較的出しやすくなる要因かと考えています。
 ここに紹介する青森県三戸町の山車は、「二段欄干高覧型」と呼ばれる例のひとつです。実物の欄干は一段で、飾り部分の最下部に屋根があり、囃子は飾りの前と下に乗ります。屋根の上に人形・風物を飾ったような構造であり、軒花が飾りの下に在ることの説得力を感じます。囃子は勇壮なものと優雅なものを場によって使い分けますが、以南・以北でこの2種が別々に伝え分られたのではと初見時は驚きました。(勇壮な囃子は盛岡・優雅な囃子は花巻)。以降も三戸の山車を見て、他地域の形のルーツを感じたことは度々あります。

平成13年見物『宇治川の先陣争い』

 三戸三社大祭は青森県三戸町の市街で毎年9月13・14・15の3日間にわたって催される(平成16年以降は第2週末に変更)秋祭りで、初日と最終日、それぞれ昼下がりに神輿の渡御・還御に伴う山車行列が行われます。令和現在の山車は八戸山車の構成にだいぶ近づいていますが、初見の平成13年時点では両者の作風は大きく違っていました。奉納台数10台超、一つ一つじっくり見るには時間が足りないと感じるボリュームです。各町(一戸以南のように「組」とはいわない)によって作風に若干差異はあるものの、おおむねどこの組にも共通する特徴がありました。
 人形をたくさん(5〜6体)上げる組は八戸で見られるような山車用のマネキンを使い、これに張子作りの大道具を付け足して一つの場面を作っています。単に縮小版でなくて、八戸山車が現在のような巨大化を果たす前の姿を思わせます。もう1つ、人形を一つだけ据えたタイプの人形山車があり、かなり素人色が目立つ、張子細工を基本とした人形です。前者と後者に、だいぶ技術的な開きを感じました。
 飾り方は両者で共通していて、松は両脇に一枝程度付いて藤を下げ、ビニール製の紅葉や桜が山車の上部・側面に広がっています。岩手に比べ、かなりカラフルな山車です。側面下方には牡丹が見えますが、ビニール製のもの・あるいは紅白に金の縁取りがなされた、でも岩手よりはあっさりした造りの牡丹です。他に花菖蒲や菊の切り花が岩の隙間に出、軒花は色とりどりで大変華やかであり、周辺地域にこれほど鮮やかな例はありません。

名手六日町による『児雷也』

 囃し方は着飾った女の子で、稚児装束の女の子であり、お囃子はそれに合った雅なものになっています(岩手でいうと、花巻とか水沢のようなお囃子)。途中、撥を耳のそばに当てて狐のような仕草をします。この雅なお囃子はあくまで神輿の渡御・還御行列の際のもので、行列から離れて自分たちの町内に帰るときは、八戸・盛岡に近いリズムのお囃子になります。このような「兼用」作法は三戸郡独特で、他に名川や南部で見ました。神社に向かう場合は「のぼり」、自町内へ帰るときは「くだり」で、シチュエーションで囃子を区別する風習はもう少し広域の山車行事にもいくつか見つけることが出来ます。


 三戸の山車は糠部地方では最も古い歴史を誇るものです。現在の形にどれだけ往時の面影が残っているかは定かではありませんが、かなり古くからこの土地の作り手達が得意としてきた趣向があります。電線の無い所で山車の上部に仕掛けられた絵を描いたベニヤ板を立てて、山車を高く見せるというものです。「どんでん返し」といい、同じような仕組みで人形を手動で立てたりもしているようですが、これはのちに八戸市に取り入れられる競り上げ山車の仕掛けのルーツであり、二戸の平三山車にも取り入れられた他、盛岡では里見八犬伝の鯱鉾の仕掛けにこの技法が参照されています。三戸山車のサラブレッドぶりを物語るどんでん返しは、秋祭りで頻繁に目にすることが出来ます。

同心町見返し『このはなさくや姫』

 祭典初日と最終日に山車が合同で動きますが、初日は集合午後1時半で駅から見て奥(同新町)から手前(元木平)に向けて巡行、最終日は1時前に集合して手前(元木平・三戸病院)から奥(中心市街)に巡行します。途中休憩を挟み、行列が終着地点に達し折り返しを始めるのが夕方の5時半過ぎです。折り返した山車は基本的にノンストップで地元に帰りますが、次第に明かりが点り、自町内に至った山車は後ろに続く帰路に向かう山車を見送ります。この見送りの盛り上がりが、私にとって三戸祭りを象徴する光景になっています。
 私は初回は昼過ぎから見ましたが、以降は最終日の夕方に、失礼ながら他のお祭りと掛け持つ形で三戸秋祭りを訪ねています。IGRの三戸駅からは結構歩きますが、昔の町が昔のまま残るノスタルジーに浸りつつ、ゆっくり歩くことにしています。青い大きな橋を渡ると元木平・三戸町内、三戸の町は思ったより広く、珍しい店・元気な店も多いです。行列先頭の斗内獅子舞(三戸神楽)と、展開場所近くの果樹園の無人販売で甘いブドウを買って帰るのが毎年の楽しみです。
(平成13・16・23・令和元・4年見物)



八日町『三方原の武田信玄』
日程概略

初 日:山車出発13:30→休憩15:40→折返17:30→納車19:00
千秋楽:山車出発12:50→休憩15:40→折返17:30→納車19:00

 

演題の記録[平成13年直接確認分]
 《表》五条の橋2例(上同心町・久川町)・弁慶立往生・平将門と滝夜叉姫(下二日町)・加藤清正虎退治(八日町)・南部俵つみ・宇治川先陣・弁慶壇ノ浦(青森県立三戸高等学校)・一寸法師(元木平)・雷神菅原道真(同心町)・児雷也(六日町)
 《背》一寸法師(六日町)・名月赤城山 国定忠治(久川町)・ドラえもん(元木平 ※元木平はアニメや実写ヒーロー物などの見返しを実に精巧に作る)・角兵衛獅子・錨知盛(同心町)・弁慶立往生(八日町)・浦島太郎(下二日町)・かちかち山(上同心町)


写真・文責:山屋 賢一

山車夜景

※青森県南地方の風流山車祭り紹介

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