沼宮内稲荷神社例大祭岩手町秋祭り2019


 個々に見ることで、また、深く見ていくことで差が縮まっていく5台の力作。
 マツリが終わり、この地の山車が積み上げてきたものについて改めて、しみじみと考えさせられた。


 



巴御前 / 牛若丸 新町組

粟津野に咲く一輪草は 巴という名の無双花

優れた武勇を 美貌(びぼう)に宿す 天下無双の 女武者
男まさりの 薙刀振るい 巴御前が 蝶と舞う

※南部流風流山車 これまでの巴御前

 
鬼神に勝る巴の御前 天に轟くその勇姿岩手県岩手郡岩手町沼宮内稲荷神社祭典山車「牛若丸」

(沼宮内山車における当演題)
 昭和62年に「新町組」・平成23年に「の組」がそれぞれ出しており、いずれも秀作として町内外で語られている。当地が完成度を高めた山車題材の代表格といえよう。
 牛若丸の見返しは前年に「の組」「ろ組」で重なり、当年は「新町組」「大町組」で重なった。

 武者絵を立体物にする面白味が満面に出て、絵紙の不可能な感じをこれまで出てきた全ての中で一番よく実現している。大胆に広がった構図は実に心地よく、勇みありつつ軽やかであるのが素晴らしい。往年の名作とどちらが、という視点は私には無意味に思えるが、潰し武者が無かった場合どう見えたかは少し気になる。






森蘭丸 / 静御前 ろ 組

水色桔梗の謀反をうけて 花と散りゆく若雄鶴

叛乱(はんらん)明智の 先鋒抑え 槍で仕留める 森蘭丸
若き鬼神の 森蘭丸も 天正事変の 花と散る

※南部流風流山車 これまでの森蘭丸

 
時は天正ととせのなかば 恨みは深き本能寺歌に込めたる静の想い 義経慕い舞い踊る

(沼宮内山車における当演題)
 自作以降は「新町組」が2回、「愛宕組」が1回製作している。いずれも蘭丸の両手・作兵衛の片手を槍でつなぐ三本通しで仕上げられ、躍動感・迫力に優れていた。今回の出来栄えは平成3年新町組の作に近いか。

 おかしい位に体勢をねじったり傾けてあって、それが唯一無二の躍動美を生んでいる。特にも潰しを横倒しにして主役との距離を作った創意が秀逸。顔はここまで来れば、もう何でも塗れる気がする。
 見返しは扇の使い方が素晴らしいが、男の舞い方に見えるのでガニ股でないほうが良い。






佐々木高綱 / 御太鼓 の 組

名馬いけずき産地を問えば 黄金花咲く南部馬場

花の若武者 高綱強く 勇猛称えて 名を残す
(見返し) 百の年月 郷社(ごうしゃ)のたから 音もさやけき 三つ巴

※南部流風流山車 これまでの佐々木高綱

※南部流風流山車の「納めもの」

 
祝う百年誉れも高く の組納める宮太鼓稲荷の祭りは風さえ静か 粋な木遣りも勇ましく

(沼宮内山車における当演題)
 借り上げ時期に盛岡のめ組・一番組から入ったことがあり、自作以降は「新町組」「の組」「ろ組」が採り上げた。「新町組」が盛岡本宮のな組、「の組」が同一番組に出張製作したこともある。「の組」の前作は騎馬武者を2つ並べる構想で、後に盛岡や一戸で模倣された。

 何と出来の良い武者人形だろう、とまず思った。古風で端正、品のある山車である。松が陽光で明るく見える状態での見栄えが特に良かった。うつむき加減なのがかっこいいので、うつむき自体が場面の描写になるような題材であれば尚良かったか。
 見返しは私が初めて直に見た「納めもの」の山車。普通の飾り物がなんだかすごく豪勢に見えて、不思議であった。






吉例寿曽我 / 九尾のきつね 愛宕組

名代成田屋歌舞伎の十八番 「寿曽我」で春を呼ぶ

花は五郎の 剥き身の隈(くま)よ 留めて朝比奈 道化役
勇み逸(はや)りし 五郎を留めて 富士の狩場に 夢馳せる

※南部流風流山車 これまでの曽我兄弟

※山車『九尾の狐退治』平成29年日詰下組

 
岩手県岩手郡岩手町沼宮内稲荷神社祭典山車「九尾狐」岩手県岩手郡岩手町沼宮内稲荷神社祭典山車「九尾狐」

(沼宮内山車における当演題)
 「大町組」が借り上げ時期に盛岡本組の当年作を引き出している。自作化以降は、今回が初めての登場。

 唯一の歌舞伎山車として独自の色彩を放ち、祝意がこもっているのが当年に合っている。単に踊りの型でなく、物語が起こってくるような演出であった。十郎の髪が不自然なのが惜しい。
 見返しは従来に無い構想で、怪しく端正な顔も、跳ねた姿勢も手つきも背景もすべて奏功している。眼目であるしっぽの描写が素晴らしい。






八艘飛び / 牛若丸 大町組

一歩半歩と届かぬ先に 九郎義経蝶と舞う

平家あがくも 八艘かわし 興亡決する 壇ノ浦
(見返し) 千の悲願に 荒ぶる僧を いなす牛若 五条橋

※南部流風流山車 これまでの八艘飛び

 
千の願いに荒ぶる僧を いなす義経五条橋 岩手県岩手郡岩手町沼宮内稲荷神社祭典山車「八艘飛び」

(沼宮内山車における当演題)
 盛岡め組流派の「ろ組」では義経とそれを追う能登守(のとのかみ)を並べた八艘飛びをたびたび、平成では3度出している。義経のみを飛ばす構図は古くは「新町組」、自作以降は「の組」が手掛け、特にも平成14年の跳躍を強調する演出が川口や石鳥谷で再登場する等影響を残した。札の表記で「義経」を省いたのは、戦後間もないころの新町組と同じ。

 ろ組ともの組とも似ない、独自の味わいがある。怒髪天突く教経、矢ぶすまの船、手前に飛び出た船など新解釈がいくつも試されているが、盛岡山車の盆に全部乗せたのは容量オーバーであった。例えば義経一人の舞台であったら、だいぶ狙いが当たったのではないか。
 牛若丸は顔はこちらが端正、跳ねる姿勢はもう一方が良いように思う。






※各組歴代作例




写真・文責:山屋賢一(やまや けんいち)/連絡先:sutekinaomaturi@outlook.com

岩手県紫波郡紫波町日詰 令和元年10月5日(土)・6日(日)

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