鵺退治
平家の栄華極まりし頃、内裏に夜毎怪しげな黒雲が現れて、時の帝(みかど:天皇)を悩ませていた。勅命により東三条御殿を守っていた弓矢の名手源頼政(みなもとの よりまさ)は或る晩、現れた黒雲に向かって矢を放った。すると世にも恐ろしい怪鳥の断末魔が闇夜に響き、空から頭は猿、体は狸、手足は虎、尾は蛇という奇怪な化け物が落ちてきた。鵺(ぬえ)というこの化け物の胸元に頼政の矢は見事に命中しており、傍らに控えていた家来の猪早太(いの はやた)が瀕死の妖怪の喉元を短刀で突き、とどめをさした。鵺退治の夜を境に、黒雲の襲来は止んだという。 得体の知れない妖怪を退治した頼政は、平治の乱で源氏が平家に敗れた後も時節を待って平家に仕え、いよいよ晩年になって皇太子以仁王(もちひとおう)を担いで平家に反旗を翻した人物である。自身は討伐されたが、頼政の呼びかけが全国に潜んでいた源氏一族の心を震わせ、後の源平合戦へとつながっていく。このように頼政は、史実でも”御所を惑わす怪しい曲者”に一矢を報いたのである。 鵺は架空の妖怪であり、各作品とも個性的でユーモラスな独特のものを作っている。背景に御殿の御簾を掛け、鵺の尻尾の蛇が真っ赤な目を光らせ、後ろから頼政を狙っている。桜の淡い紅に御簾の黄色、鵺の体は黄色と黒の縞、顔はヒヒなので赤、鬣は白、頼政の烏帽子は黒、鎧は錦…以上の色彩が盆の上で一体化し、見事な調和を見せる。奇抜でありながら、上品さを兼ね備えた非常に魅力的な構想である。 退治ものの山車はケモノ系を作る大変さの反面、ケモノに主人公の「攻撃の方向」を集中して向けられるため、勇みを出しやすい構図にもなりうる。鵺退治の鵺は、位置といい大きさといい、退治する頼政の勇みを十二分に引き出せる、大変重宝なケモノである。鵺退治に限らず、このような退治ものの特性に気づいて作られた作品は上手い、魅力的な山車となり、気づかずあるいは妥協して作ってしまうと、ちぐはぐな山車になってしまう。 沼宮内のの組は平成初期に伝統的な構図で鵺退治を作り、十数年後には錦絵などの構図を活かし、狩衣姿の頼政に弓矢を持たせ鵺を射落とす場面を飾った(写真3)。鵺の大人形をさかさまに宙に舞わせた怪作であり、盛岡城西組の白藤彦七郎など各地の奇抜な山車を作るヒント・きっかけになりえている。同じく沼宮内の大町組も、古態をよくとどめた躍動感あふれる鵺退治を山車に出している(写真2)。 (他地域の鵺退治の山車) 一見娯楽的な鵺退治だが、実は藩政期の丁印に作られていた格式高い題である。関東にも作り変えないご神体山車人形の一つに、頼政と猪早太を象ったものがある。
うねる黒雲 あらわる異形(いぎょう) 御所(ごしょ)に頼政 鵺を射る
盛岡山車の退治ものの中ではもっとも難しいといわれる演題のひとつ、「平家物語」に綴られている妖怪退治の場面である。
盛岡山車には、鵺を仰向けに組み伏せた頼政が短刀を掲げ、喉元を刺そうとする伝統的な構図が継承されている。もともと猪早太が果たすべき役割を頼政に託し、盛岡山車の定型に合わせたものである。盛岡の大工町で戦前、この構想を『猪早太 ぬい退治』と題をつけて山車に出した。それより以前の作例”イヌイハタヤ”と記録されている山車も、おそらくは猪早太で、鵺退治の山車であろう。戦後になって本町三町内連合の「三和会」が構図を復刻、『源三位頼政 鵺退治』と改題して飾った。この時の絵紙をもとに、平成以降は岩手町の沼宮内で数例作られている。花巻石鳥谷の上若連は、退治する武者の名を演題名にも音頭にも登場させず、出典先の平家物語に準拠した表記にこだわり『風流 空鳥(ぬえ)』と題した(写真1)。
岩手県内では盛岡山車以外で鵺退治にお目にかかることは無かったが、八戸人形を入れている県北の普代村、動物ものの山車が得意な花巻の豊沢町等で近年作例が出た。秋田では角館と土崎で作例が出たが、うち後者は青白い人魂を伴い、照明にも趣向を引き立てる工夫があった(写真4)。青森では、八戸三社大祭・野辺地祇園祭・青森ねぶた・弘前ねぷた・黒石ねぷたなど各地で鵺退治の山車を見られているので、東北に鵺退治の山車を求めて赴くなら、青森県が最適と言いたい。うち八戸では、鵺退治の場面を正面に、見返しには頼政が天皇から「獅子王」という名刀を賜る場面を飾った山車が出た(写真5)。
文責・写真:山屋 賢一
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絵紙
源三位頼政鵺退治
沼宮内の組(本項)
沼宮内大町組(本項)
石鳥谷上若連(本項)
盛岡二番組
青森八戸
秋田土崎(本項)
ねぷた絵(青森弘前)盛岡大工町
盛岡三和会
沼宮内の組
青森県野辺地町
青森県八戸市数例(うち本項に1件)
青森県黒石市
青森県青森市沼宮内大町組
石鳥谷上若連(ポスター)
盛岡二番組(富沢)
盛岡三和会(富沢)
盛岡大工町
御所を悩ます あやしきけもの 一矢(ひとや)で射落とす 源三位(げんざんみ)
内裏(だいり)惑(まど)わす 異形のものよ 闇より出でし 其の姿
弓に優れし 頼政公(よりまさこう)が 月に向かいて 矢をはなつ
京を震わす 怪(あや)しき声音(こわね) 三位頼政 鵺退治
姿の見えぬ あやしきものを 弓を用いて 退治する
黒雲立ち込む 東三条(ひがしさんじょう) 妖怪退治の 源三位
帝の命(めい)受け 御殿の警護(まもり) 弓張月夜(ゆみはり づきよ)の 鵺退治
勅定(ちょくじょう)果たせし 弓矢の腕は 摂津(せっつ)源氏の 誉れなり
あやしきけものは 寅・巳・申で とどめさしたは 猪の早太(いのはやた)
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