青森県五所川原市 奥津軽虫と火祭り(6月最終日曜日)

青森県五所川原市 奥津軽虫と火祭り

 

 

 立ちねぶたを見に初めて五所川原を訪れてから、早いもので3年経ちました。今回は「ねぶたのシーズンでないときに津軽を訪れる」ということにも十分な価値を見出しつつ、初見で大変気に入った五所川原のねぶた祭りのルーツということで、「蟲送り」を見に行ってきました。現在の立ちねぶた祭りは、もともとこのお祭りの一環として行われたものなのだそうです。

蟲の山車
 蟲送りはどちらかというと、お祭りというより民俗行事の色彩が濃いように思われます。芸能や山車のように、観客に見栄えのするような演出がされていない、「風流化」されていない行事です。蟲とは田畑を食い荒らす害虫を総称したもので、津軽ではその姿を竜になぞらえて頭を木で、体をわらで作り、村々の入り口にあたる木の上などにくくりつけておきます。なんにも知らない人が見ると、一瞬ギョッとしてしまいます。暫くの間そうして飾っておいて、最後は火をつけて燃やしてしまう。この種の行事は全国的に見られるものなのでしょうが、津軽の場合はとりわけそのビジュアルが特徴的なので、何かと話題に上ることが多いように思います。

 この行事をアトラクションとして演出する、「奥津軽虫と火まつり」は実に斬新な視点で行われていた「五所川原の夏祭り」でした。現在は立ちねぶたにポジションを取って代わられ、さなぶりにあたる6月下旬に行われています。お祭り開始が夕方近くで、市内を練り歩くパレードは夜の6時スタートです。ほぼねぶた祭りと同じようなタイムテーブルです。駅前から岩木川河川敷までを約1時間15分ほどで練り歩き、その後は松明を燃やして「蟲の昇天」を行います。催事一切の終了は、夜の8時半でした。

太刀振り踊り
 これまで述べてきたような虫送り行事の要素を、五所川原は大まかに2つの工夫でイベント化しています。

 まずは、木の上に飾られるはずの蟲の人形を台車に乗せ、鳥居や杉の木を添えて山車に仕立てる。蟲の目などにちかちかしたライトを入れたり、おのおの工夫の見られる仕上がりです。この蟲人形の山車が約10台、市内を練り歩くわけです。山車に囃子が一切乗り込まず周囲でねぶた囃子をはやしにぎやかに彩る様子は、津軽特有の作法なのだと思いました。(弘前の山車にも、お囃子は乗り込まないのではないでしょうか)

 ねぶた囃子にあわせて「太刀振り」という踊りがよく踊られていました。衣装はさまざまですが、杵を思わせるような太い棒を持って地面を突いたり、前後の踊り手で打ち合わせたり…という素朴な踊りです。南部藩領でいう「七つ踊り」に似た雰囲気に見えます。棒を両手で腰の辺りに捧げゆらゆらと揺らす様子は、三戸の神楽の七つ物に出てくる動きを思い出させます。

 北上みちのく芸能まつりにたびたび招かれている「金木(かなぎ)さなぶり荒馬」でも、はじめに赤襦袢を着たおばさん達が太刀振りを踊っています。金木荒馬はこのイベントにも常連として参加しており、はじめて現地で踊られる様子を見ました。金木の場合は太刀振り、三匹獅子を経て胴体と首だけの馬にまたがった津軽藩主が出てくるのですが、相内の太刀振りでは露払いの道化的な役回りで荒馬が伴われています。街路の左右に激しく動いて観客に絡んだりします。

 三匹獅子で蟲送りパレードに参加する団体もありました。猿賀神社の拝殿に詣でるときの短い踊りを演じながら練り歩きます。金木の荒馬が「さなぶり荒馬」なのは、こういう行事に出てくる主要な芸能をすべて網羅しているからなのでしょう。その網羅具合がとりわけ進んでいるのが、金木の例なのだと思います。今別町にはまた様相の異なる荒馬踊りがありますが、今別を「ねぶた荒馬」としたときに、五所川原周辺の1頭しか馬のない荒馬を「さなぶり荒馬」として区別すると、すごくわかりやすい。今別の荒馬は「はねとの舞踊化」であるように私には見えます。荒馬を数えるほどしか見たことがなく、また津軽地方の地理的な部分についてもまだまだ研鑽の足りない私ですので、取りあえずはこういう安易な位置づけで荒馬を捉えてみることにしました。どちらの荒馬も、青森ねぶたの進軍囃子に近いお囃子で踊られている点は共通しています。

お山参詣
 岩木山のお山参詣登山囃子もたくさん随行し、特徴的なカンナガラを束ねた御幣も見ることができました。会場へ向かう途中弘前駅で手に入れたパンフレットには、「南部(青森県八戸市周辺のこと)のお祭りは民俗の絵巻」といったようなことが書かれていました。「あれほどたくさんの芸能が一堂に会し凝集している例は珍しい」とも言われていました。津軽では、この「奥津軽虫と火祭り」がそういった雰囲気を実現している数少ない好例なのだと思います。とはいってももちろん凝集するアイテムも違い、凝集の仕方も違うわけですから、ここ独特の味わいを楽しめるわけです。沿道にもたくさん人が出て、6時半に駅に着いたときには駅前にもたくさんの踊り子が控えていました。

 こういう行列が松明神輿を最後尾にして河川敷に集まり、夜も暮れる頃になって、年末にナインティナインがやるような神事が行われます(文言とかもかなり似ていて、それを真剣にやっているのが面白い)。河川敷にはものすごく人が集まっています。祭りを迎える人々の「熱さ」がガツガツ伝わってきます。商店街で踊りを見る人の数にも驚きましたが、河川敷にズラリと並んだ五所川原市民はまさに圧巻。岩木川がチグリスユーフラテスで、五所川原にこんなにすばらしい「祭りを見る習慣」という文明をもたらしたかのような。岩木川はまさに、五所川原の憩いの場、祭りの最高潮の場なのでしょう。河川敷には出店が軒を連ね、さらに水に近いところに蟲の山車、またまたさらに水辺のほうで花火が行われます。天に向かってうねりながら上っていくような姿の「大蟲様」(←ここらへんも大晦日の岡村さんっぽいですね)への点火がクライマックスですが、花火というのはどうしても上を向いてみるため空が高く感じてしまい、ラストの大蟲昇天の威容が若干損なわれてしまっているのが残念。逆に言うとそれだけ、花火が派手であるということです。

 神事は神官が祭壇の上で棒倒しに使うような大きな松明を振り回します。危険なので遠望するしかないのですが、広い舞台の本の一角で行われているこの振り松明の一挙動一挙動に、河川敷全体が「おお」と歓声を上げます。その後は市長の点火で花火がスタート。打ち上げ系のほかに下方から火の柱を立てるような花火(うーん、花火用語を知らないなあ)も多用されていました。BGMにあわせての打ち上げで、夜空に煙が四散する前に次々と打ちあがってしまうのがもったいない、でもすごく綺麗です。それまでのお祭りの雰囲気がうそのような花火のBGMですが、曲に合わせて花火を上げるのはきっとすごく難しいだろうから、これは素直にこの雰囲気を楽しんだほうがよいのだ、と思いました。最後に、前述した大蟲様に着火。片方の虫の頭まで火が及ぶと虫の口に仕掛けてある花火が発火して、隣の蟲へ向けて火を放つという演出は、笑ってしまいましたが面白かったです。蟲が燃え尽きてしまうとそこからさらに打ち上げ花火、空中で細かく回転する空中ねずみ花火がよく効いていて、「蟲人形に火を放つ」ということが非常に娯楽的に、華やかに再編されているなあと思いました。

 果たしてこの行事が蟲送りにあたるのか、ということについていろいろと議論があるのではと思いますが、私はこのような演出で素朴な民俗行事を見事に彩って見せた企画者の皆様に、ただただ敬服するばかりでした。(平成17年見物)



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