岩手県北上市 黒沢尻火防祭

 

 

黒沢尻秋葉神社

 




七区山車『夫婦舟』
(平成15年:2日目日中に見物)


 秋葉神社火防祭は「黒沢尻の春祭り」としてたびたび岩手日報紙面等に紹介されている行事で、黒沢尻第3区、同第7区(新穀町・芳)、同十二区(諏訪町)から繰り出される3台の風流山車が、厳かな黒沢尻囃子に乗って北上駅から諏訪町商店街にかけて練り歩きます。
 山車の姿は盛岡流と花巻流を混交したものですが、団体によって混交率に差があります。具体的には、盛岡らしいところに花巻の長所を採り入れた作品があり、花巻らしいところに盛岡の長所を採り入れた作品があります。全体の雰囲気としては、人形を核とした盛岡流の山車を、優雅な調べの花巻風の囃子で引いている印象でした。藩の境にあたるこの地域らしい特色なのでしょうし、こういう雰囲気が稗貫・和賀地方の風流山車(要するに花巻らしい山車)全体に見られる大きな傾向なのではないかと、このお祭りを見に行って気付きました。
 小太鼓をたたくのは稚児姿の子供達で、山車の前に手押し車を押して歩きながらたたくパートと、山車の前面に座ってたたくパートとが両立しています。人形飾りの前のスペースを比較的広く取ってあり、三味線を弾く振袖姿の女性を乗せている組もありました。背面には大太鼓が据えられ、大人が歩きながらたたきます。十二区のみ、大太鼓も山車に乗り込んでたたく形式ですが、唯一きちんとした大八車を用いていることによるのでしょう。囃子の音曲はいくつかあるようで、その他に余興として大乗神楽を踊ったり、手古舞が花笠を持って踊ったりします。

●各山車組の詳細記述

7区【夫婦舟/高砂】

 表裏とも正式な演題名に『〜の体(テイ)』と付き、人形の大きさを見ても花巻系の山車である。飾り物の位置に気を付けて見ると、盛岡流の格式にきっちり合っている。人形一つ一つは花巻祭りの平均的なそれよりレベルひとつ上であり、鯛の作りの迫力やら、波出しの玉を鯛の体にくっつけた工夫やらが良かった。高砂は見返しになりそうでなかなかならなかった珍しい題目であった。

 山車の前に大乗神楽の蛇頭が据えられてあり、これを使った下舞・神楽を余興に披露していた。

3区【児雷也/一寸法師】

三区山車『児雷也』

 児雷也の人形は盛岡くらいの大きさのもので、1体を核としているのも盛岡風である。一方で、飾り方は花巻並の自由さであり、花の位置も各々奔放で、ガスバーナー照明もついている。隈取をとった児雷也が蝦蟇、大蛇、蛞蝓を従える構図で、各々の目に光る仕掛けがあった。

 手古舞が山車の拍子に合わせて優雅に踊っていた。

12区【里見八犬伝/汐汲み】

 盛岡観光協会から購入した山車を引いている。造りがやや粗く見えたが、この時期の盛岡の傾向に反してきちんと片側のみに桜を飾っていたのは良かった。太鼓は表裏とも鋲止めの和太鼓で、小太鼓は稚児装束の子供が乗り込んでたたいていた。



手古舞の踊り(三区)

 大まかな日程をうかがったところ、一日目の土曜日の夜に夜間運行を行い、翌日曜日の正午あたりに3台そろって北上駅前を巡行、午後1時半ごろ諏訪神社に合祀されている秋葉様に余興を奉納し、諏訪町アーケードをゆっくり運行しながら本拠に午後4時ごろに帰って終了となるとのことでした。

 春に火災を防ぐ祈願祭として山車を繰り出す習慣は「日高火防祭(岩手県水沢)」「多川稲荷神社初午祭(宮城県中新田)」など伊達領に多く見られ、囃子もきらびやかに着飾った少女たちによる優雅なものでありますが、南部領最南端のこの町の祭りにおいては、この雰囲気を盛岡流の人形中心飾り物山車行事と組み合わせて行っている面白さがあります。すなわち、音は優雅で、目で見る山車は勇壮で変化に富むのです。花巻や東和町の山車もきっとこのような組成なのだと思います。

 黒沢尻には、番付(山車絵)配布の習慣まで残っていて感激しました。畳まずに折り目のない状態で配る点や、必ず神社や団体の代表者の印を押してあるという点が独特で、火難除けのお札のようなイメージで辻辻に張られています。春祈祷の神楽は長髪で、河童頭で目が飛び出して鱗が生えています。獅子頭でなく、北上地方独特の蛇頭なのです。

 桜も満開で、春らしいお祭りをほのぼのと楽しめました。



辻に張られた絵紙
(平成16年:初日の午後から夜まで)

 2日間開催の黒沢尻火防祭のうち初日土曜日の宵宮には、3つの山車が合同して動く場面はありませんでした。山車は各々昼過ぎから動き、諏訪町アーケードから〔12区〕さくら野百貨店の通り〔3区〕あたりを自由運行します。
 7区は主に裏通りの住宅地を運行していましたが、囃子を拡声するため探せないことはありません(大変でしたが…)。7区と12区は夜7時ころから飲食店が軒を連ねる青柳町を夜間運行、特に12区は一箇所に割りと長く山車を止めていました。3区は地元周辺を回り、夜8時には納車します。ガスバーナーがきっちりと発動しているのを見てきました。
 夜間照明は確実に1日めでないと見られませんが、山車それぞれの運行場所がなかなかつかみにくいので、見物用に勧められるのはやはり2日目の本祭、という感想を持ちました。



●各山車組の詳細記述(照明状況含む)

12区【土蜘蛛の精/花咲爺】

 盛岡で出たときよりも人形を立て、雰囲気の違う組付けにしている。背面は新作で、草創期の盛岡観光協会の見返しを、近年のファイバー技術で再現した作品なのだろう。
 12区の持つ余芸を2つ確認した。手古舞の踊りと音頭上げである。音頭上げは中学生による纏振りを同時進行させながら行い、音頭を挙げるときだけ盛岡と同じ上げ太鼓を打つ。笛もなく撥裁きも未完成の感があり、運行時の囃子とは全く連動しないものである。
 夜間照明は表に2つ、裏に1つ裸電球をホイルで包んでつけるだけで、かなり暗くて時折明かりが揺らめく。夜間運行は夜7時に諏訪神社裏を出発し、青柳町周辺で音頭を上げ、9時に戻る。子供が帰った後は手古舞姿の女性たちが太鼓をたたいていた。



3区【巌流島/揚巻】

 前回は盛岡張りの大人形だったが、今回は花巻風の等身大人形であった。題にも[躰]と付いていて花巻風だ。武蔵・小次郎に見届け人の細川家代官を加えた3体飾りである。跳躍する武蔵を下に支えを作らず飾り、周囲に竹で支えたカモメを何羽も飛ばした。背面は朱の傘と道具箱を差し出す「かむろ」を添えた2体飾りの揚巻で、夜には格子の朱が映えた。
 唯一ガスバーナーを採用した夜間照明は、3町のうちではダントツに明るかった。



7区【猿蟹合戦/蓮の曼荼羅】

 表面はおもむろに倒れ掛かった大猿のインパクトがすごくて、出来も良かった。写実的な柿、臼、栗、蜂、蟹などがよく脇を固めている。背面は合掌する女人形に紙製の蓮の造花を添え、夜間照明ではこの蓮1つ1つに灯が入った。
 牡丹に明かりを入れるのは7区だけだが、松や桜にはまったく電飾しないためか、全体としてさほど明るく感じなかった。



六区の手押し車

(平成17年:両日見物)

 今年は2日間見物に行きました(初日は夜だけ、2日目は日中だけ)。23日は夜7時ころ北上駅に着いて、昨年同様青柳町の飲食店街で第7区、第12区の山車を見物しました。翌24日は朝11時過ぎに北上入りして、3年1回の運行という第6区の山車を見ました。
 昼過ぎのパレードは駅前大通にすべての山車が待機して始まるのではなく、おのおのの山車が諏訪神社前にいたるまでに自然に列を成して出来上がるのだとわかりました。神輿が出るのは2日目だけなので、神輿に連動する山車の合同運行も2日目だけなようです。



●各山車組の詳細記述

【第6区】 風流 不動明王/見返し 鯉太郎

 台車に城西組の名札がついているので、台車ごとで盛岡から持ち込んだものと思われる。盛岡では取り外し可能だった上のほうの炎が、やや低く改良されて着脱不能になっていた。芯を染めた片側飾りの桜が妙に綺麗であった。余芸は吉原囃子にあわせた手古舞の踊りと音頭上げで、演題に即した文句の音頭上げもあった。「よおいわえ」と声をかけると、上げ太鼓を叩いて音頭に入る。絵紙は唯一たたんで持ち歩いており、絵が表面に出るように折られていた。

十二区山車『牛若丸』

【第12区】 風流 鞍馬山/見返し 花咲爺

 盛岡では見返しに使われたカラス天狗と牛若丸の決闘の場面を表に上げた。割と見栄えがして、貧相な感じはなかった。人形の大きさが組ごとにばらばらな黒沢尻なればこその効果だったと思う。牛若の目線をより天狗へ傾けたことで面白みが出て、足元の岩を強調したのも違和感の無い仕上がりに貢献していた。圭画伯による新作番付が使われた。


【第7区】 風流 日本武尊/見返し つるのおんがえし

 今回は第3区が休んだので、唯一の地元手作り山車であった。日本武尊が白鳥(しらとり)になって昇天する場面を描いたもので、よく八戸の山車などでお目にかかるが、岩手では珍しい題材である。白鳥がハクチョウになっているのが興ざめな感じだが、いい顔の人形がたくさん持っている組だと改めて確認できた。見返しには機織道具が細かく再現され、傍らの鶴の人形が羽を一枚口にくわえているなど芸が細かかった。






確認済みの黒沢尻火防祭歴代山車演題
バーナー電飾(三区『因幡の白兎』)
年 代 三 区 六 区
(貸出先等)
七 区 十二区
(貸出先等)
(年代不詳)

(調査中)

(調査中)

太閤秀吉 児雷也/八重垣姫
(盛岡青山組S56の先出しか)
昭和55年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

夜討曽我
(駒木人形:日詰一番組S55等と共通)
昭和56年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

村上義光
(駒木人形:日詰上組S56等と共通)
昭和57年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

碁盤忠信(潰し付き:武者仕立て)
(盛岡い組S49改作か)
昭和58年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

島の為朝(山犬)
(盛岡駒形会S56)
昭和59年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

児島高徳
(駒木人形:沼宮内大町組S59等と共通)
昭和60年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

早川鮎之介
(駒木人形:日詰上組S59と共通)
昭和61年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

坂上田村麿
(駒木人形:日詰上組S60と共通)
昭和62年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

黒沢尻五郎正任
(駒木人形:他地域では『安倍貞任』)
昭和63年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

四ツ車大八
(盛岡樋下建設S61)
平成2年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

大國さん
(盛岡二番組H1一部略)
平成3年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

碁盤忠信
(盛岡さ組H1)
平成4年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

和藤内(紅流し)
(駒木人形:日詰橋本組H3等と共通)
平成5年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

児島高徳
(駒木人形:日詰上組H4等と共通)
平成6年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

連獅子
(盛岡山車記念館/観光協会S53)
平成7年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

紅葉狩
(盛岡観光協会H5)
平成8年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

三条小鍛冶
(盛岡観光協会H7)
平成9年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

猩猩/花売り娘
(盛岡観光協会H6・H8)
平成10年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

碁盤忠信
(盛岡城西組H9)
平成11年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

安宅の関
(盛岡観光協会H10)
平成12年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

竹抜五郎
(盛岡観光協会H11)
平成13年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

鏡獅子
(盛岡観光協会H12)
平成14年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

歌舞伎十八番 景清
(盛岡観光協会H13)
平成15年 児雷也/一寸法師

休み

夫婦舟/高砂 里見八犬伝芳流閣の場/汐汲み
(盛岡観光協会H14・盛岡や組H13)
平成16年 巌流島/揚巻

休み

猿蟹合戦/蓮の曼荼羅 土蜘蛛の精/花咲爺
(盛岡観光協会H15・新出し)
平成17年

休み

歌舞伎の不動明王/鯉太郎
(盛岡城西組H15・H8)
日本武尊/つるのおんがえし 鞍馬山/花咲爺
(盛岡観光協会H16見返し・同前回)
平成18年

休み

休み

休み

歌舞伎十八番 鳴神/雲の絶間姫
(盛岡観光協会H17)
平成19年

休み

休み

紀伊国屋文左衛門/巫女(演題名不明) 五条大橋/錦祥女
(盛岡三番組H17・盛岡や組H18)
平成20年

休み

和藤内の虎退治/雨の五郎
(盛岡わ組H16・盛岡城西組H15)

休み

矢の根五郎/羽根かむろ
(盛岡観光協会H19)
平成21年

(調査中)

(調査中)

(調査中)

紅葉狩
(盛岡観光協会H20)
平成22年

休み

休み

加藤清正虎退治/尼将軍北条政子

八岐大蛇(2匹)/朝顔売り
(盛岡観光協会H21一部略)
平成24年 天の岩戸開き/因幡の白兎 関羽/諸葛亮
(盛岡城西組H21)
空海、不動明王に祈念/どじょう掬い 義経八艘飛び/静御前
(盛岡観光協会H23)
平成25年 加藤清正虎退治/藤娘

休み

化身清姫/出雲阿国の念仏踊り 関羽/孫悟空
(盛岡観光協会H24)
平成26年 やまたのおろち/奇稲田姫

休み

山内一豊馬揃え/賢妻千代 車引き/三番叟
(盛岡観光協会H25)
平成27年 川中島/八重垣姫 町火消し/鬼剣舞(台車含め自作) 卑弥呼/壱与 雨の五郎/滝夜叉姫
(新出し・盛岡観光協会H26一部足し)
平成28年 鞍馬山/静御前

休み

定火消し/猿回し 操り三番叟/八重垣姫
(新出し・盛岡火消し会H23改作)
平成29年 風神雷神/弁財天 町火消し(2体)/鬼剣舞 家康の鷹狩り/鶏舞 鬼若丸/静御前(鼓)
(盛岡観光協会H28・見返し背景替え)
初日夜の青柳町(十二区『義経八艘飛び』)





文責・写真:山屋 賢一

※岩手県南部から宮城県北部までの山車行事について

※12区・6区は盛岡山車の異伝

 

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