岩手県久慈市 久慈秋祭り
( 自 作 後 )

もともと三八上北地方の秋祭りには「八戸の山車を招いてにぎわう」といったような事が昔からあり、久慈の山車も、長らく八戸三社大祭で奉納された山車をそのまま持ちこみ、組の名前を書いた看板などを付け替えて運行されていましたが、平成20年をもって、すべての町内が山車の完全自作化を達成しました。私も5年ぶりに、自前の山車で催す久慈秋祭りの活況を味わいに行くことにしました。
初日のお通りは大神宮の膝元である荒町から、市内中心部に向けて神社行列・樽ミコシ・山車が合同で運行します。出発は夕方の4時、初めに神輿団体が何基か続きますが、なかには年毎に作り替える人形を乗せた「創作みこし」もあります。山車がようやく動き出すのは4時半過ぎで、次第にあたりが夕闇に染まり、通りにすべて山車が入る頃にはすっかり夜になります。初めに山車が通るのは、左右にずらりと出店の並ぶ八日町・十八日町・二十八日町で、観客が極めて多く年齢層も広いので、町中の人が山車を見に来ている雰囲気を感じました。大変盛り上がっています。この通りには電線が無いので、山車は全開状態のまま前に進むことができます。夜間照明に照らし出された山車の威容は、広い層の観客を魅了していました。
行列は、まず山車に先行する中学生の旗持ちが十人くらい、続いて横一列に手をつないだ子供たちが街路いっぱいに広がります。笛吹きの集団、その後に綱、曳き子総勢300人だそうですが、子供たちがだいぶ人数を稼いでいるようで、それはそれで楽しそうなお祭りです。運行の掛け声は「ヨースヨイサー、ヨイスーヨイサ、ヨースヨイサー」と大人のマイク持ちが掛け合う独特のもの、外部の人間からすればかなり異様に聞こえますが、これが久慈の粋なのでしょう。山車は合同運行を終えるまでの3時間弱が華、あとは引き子も太鼓も開放して大人たちだけで山車を引いて帰りますが、そのときでさえ掛け声だけは欠かしません。
いずれ久慈のお祭りは、県北最大の名に恥じないスケールと、新嘗祭の素朴な雰囲気双方の魅力をあわせて楽しめるいいイベントでした。
(平成20年見物)
| 平成15年 (借り上げ期) |
平成20年 | 感 想 (平成20年の山車+α) |
|
|---|---|---|---|
| 中組 | 孫悟空 | 国性爺/紅流し | 全体的に造りが荒く、魅力的な表情も少なかったが、トラに添えられた笹の葉が綺麗にカールしていて立体的であった。 |
| 上組 | 倶利伽羅峠 | 大般若/鶴の恩返し | 山車に現れている構想と、三蔵法師が大般若経を授かる物語とがよくつながらない山車だったが、鬼女がたくさんいる凄味は感じた。 |
| 新町組 | かぐや姫 | 新桃太郎/鳥獣戯画 | 鬼の顔がたくさんあって不気味な山車。見返しにかえると相撲を取るうさぎを飾って鳥獣戯画という発想が面白い。 |
| 巽町組 | 鎮西八郎為朝/常盤御前 | 石川五右衛門大阪城参上 鯱の翡翠の眼を盗む/五右衛門の釜茹で | 立派な大阪城を作り、加藤清正など豊臣配下の豪華な鎧武者をたくさん配した豪華版。八戸流でしか出せない華やかな場面で、無駄のない秀作であった。 |
| 本町組 | 陰陽師/雷神の道真 清涼殿に雷を落とす | 飛龍伝説 義経蝦夷渡海/戦国自衛隊 | 戦車と騎馬武者をコラボさせた見返しが面白い。表はキリンがそれぞれ煙を吐く、なかなか凄味のある風貌であった。 |
| め組 | 加藤清正虎退治/こち亀 | 三国志/ヤッターマン | 最古参の自作組。アニメ見返しにもこだわりのある団体のようで、なかなか構図のとり方がよかった。 |
| 備前組 | (覚えていない) | 津軽為朝/鷹と蛇 | 古参の自作組で、他よりやや小ぶりな山車。ピンクイルカと直江兼続がコラボしていた。 |
| に組 | 三国志 南蛮王孟獲 | 亀の恩返し/北限の海女 | ところどころにちりばめられた狐のモチーフに動きがあり、竜の角にきらきらとラメが入っているのも効果的であった。この作品で自作4作目だが、黄色をテーマカラーとし、当初から八戸レベルの大きさの作品を作ってきた。 |
(久慈秋祭り 借り上げ期)

もともと三八上北地方の秋祭りには、「八戸の山車を招いてにぎわう」といったような事が昔からあったようで、久慈の山車も八戸三社大祭で奉納された山車をそのまま持ちこみ、組の名前を書いた看板などを付け替えて運行されているのが一般的ですが、近年数団体で自作・手作りの山車が奉納されるようになりました。大変嬉しい事です。久慈オリジナルの山車は、八戸の山車の最大の見所であるせり上げ舞台の仕掛けがやや押さえられてはいるものの、人形の質感や構図の作りは他の組の山車に迫るものがあり、今後ますます技術を上げていくのだろうと期待させる出来栄えでした。
八戸の山車の持ちこみ?じゃあまったく八戸の三社大祭と変わらんじゃないか…と思われる方も多いかもしれません。実際私もそう思っていた一人なのですが、実際お祭りを眼にしてみて、かなり違った雰囲気を感じることが出来ました。
私が見に行ったのはお帰りの日。最終日の日程は、午後2時から巽山神社の門前、本町を起点に山車行列がスタートします。午前中はそれに先駆けて、駅方面に向けて各組の山車が駅前付近を自由運行するわけです。といっても、山車の運行としては自由な門付けはほとんどなく、寄付もらいはもっぱら若衆の音頭上げ廻りで行われています。久慈のお祭りが八戸と違うところの第一は、この「音頭の珍重」にあります。八戸のお祭りでは、音頭上げを全くといっていいほど耳にする事がないのですが、久慈では山車の運行前から町のいたるところで音頭の上げ廻りが行われ、また山車の運行中も頻繁に音頭が上がります。音頭の節は盛岡周辺のものにかなり近く(これは八戸市の音頭も同様です)、歌詞は組誉めの一曲のみで、実行委員会発行のパンフレットには山車の見取り図の横に必ず書かれてあります。組誉め以外の曲、長歌の形式をとって演題を読み上げるものもいくつかはありました。軽米町で耳にしたものに似ているような気がします。とにかく久慈のお祭りの聞きどころは音頭。山車を見せるメインであるせり上げも、必ず山車を止めて、進行中の囃子でない囃子を何種類か披露し、それに続く音頭を背にする形で行われます。これは、山車を開いて見せるのが祝儀への御礼といったような元もとの山車を見せるあり方に通じるものでしょうか。八戸の山車運行ももともとはこうでなかったか、久慈の山車を見ていて自然と想像させられました。
進行中のお囃子は、大太鼓・小太鼓のリズムは南部流のものにかなり近く、これに供される笛のメロディーは八戸のものとはまったく違う、久慈独自のものでそた。軽米や大野、普代など八戸持ち込みの山車祭りとの関連が気になるところです。せり上げの時の山車を止めるお囃子は、八戸には見られないものであり、その中の一曲は、なんだか本当に幸せそうな感じを伝えるものでありました。お祭りに望む久慈の皆さんのの思い入れを感じさせてくれます。
囃子で特筆すべき点はもうひとつ、大太鼓の奏法です。大太鼓は小太鼓とともに山車の飾りの前の部分にいるわけですが、大抵叩いているのは一人で、山車運行における非常に重要な役割を果たすものとして、運行開始時、町内運行時には頭取りの名と合わせて観客に紹介されるほどの花形であります。この大太鼓の奏法は、叩く動作の節目節目で山車の進行方向に向かって撥を構えて見せるというもので、いつからこの奏法が久慈に定着したのか定かではありませんが、太鼓の面やその垂直上方ではなく、観客に向けて奏法をアピールする姿勢に、この地方独自の気風を感じます。大太鼓は大方は若い男衆がたたきますが、め組では女性が携わり、粋な奏法と型の力強さには思わず惹きこまれそうになりました。進行のお囃子は「よーす、よいさ」の掛け合いに終始し、これは二戸地方の掛け声に若干の色付けがされた形。「やれやれやれやれ」は小太鼓しか囃しません。大太鼓の撥は短いバット型、小太鼓は長くて細めの撥を使っています。
久慈秋祭りに見られる山車の惹きまわしの作法は、八戸系の山車を本当にじっくりと楽しませてくれる珠玉のものであり、お帰りパレードはお昼の2時にスタートし、たっぷり3時間、午後5時までゆっくりと町内目抜き通りを運行しています。久慈の市役所が繰り出す神輿は人形神輿で、これは毎年趣向を変えるものです。これもまた、山車と同じ楽しさを提供してくれる祭りの目玉といえるでしょう。
唯ひとつ、久慈のお祭りの望ましくない点を上げるとすれば、約2ヶ月を経た八戸山車の節々に著しい落剥が見られることで、塗装の剥げは言うまでもなく、人形の破損と材料の露出、装飾の破損などに改修を加えられず、そのまま運行されてしまっているという実情です。これは山車をじっくり見せる久慈の運行形式だからこそ余計に目立ってしまう事で、貸出先借入先双方からの努力が求められるのかもしれません。その意味で、自作を手がけるめ組、備前組には努力の成果がきっちり主張できる余地が残されているともいえましょう。
いずれ久慈のお祭りは、県北最大の名に恥じないスケールと、新嘗祭の素朴な雰囲気双方の魅力に酔えるよいイベントでした。(平成15年執筆)
※資料※
各組の借入先:新町組(塩町山車組)・本町組(吹上山車組)・巽町組(廿六日町)・に組(十一日町龍組⇒平成16年より自作)・上組(売市付け祭り組)・中組(類家山車組)・め組(自作)・備前組(自作)
概要日程:
前日(9月第3木曜日) 午後6時半から駅前前夜祭
初日(9月第3金曜日) 午後5時よりお通り(目抜き通り夜間パレード)
中日(9月第3土曜日) 午後から郷土芸能大パレード
終日(9月第3日曜日) 午後2時からお帰り(目抜き通り日中パレード)
文責:山屋 賢一
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