川口の山車

出を待つ「きつね踊り」(平成11年撮影)

 岩手郡岩手町川口にて9月下旬に3日間(うち一日は9月23日)に運行される、豊城稲荷神社祭典山車3台。大正の末から昭和30年代まで催行の形跡があり、当時は下町組・上町組・駅前通の3台で、いずれも二戸郡一戸町からの借り上げ山車を運行していたようである。戦後間もないころは生身の人間が仮装して山車に乗り込んだ事もあった。交通事情により断絶の後、昭和61年に復活されて現在に至る。同町沼宮内では復活当時山車行事が盛んであったが、沼宮内の山車人形の借り上げは3組とも最後まで行わず、もっぱら盛岡からの借り上げであった。

 現在はすべての組で自前の趣向を上げた山車が作られ、初日と最終日いずれも午後1時にスタートする大名行列を先行させた神輿渡御を佳境とし、中日は照明を燈して夜間運行を行う。初日を除く2日間は、朝早くから山車組が地区全域を回って門付けをする(山車を置いての門付けを含む)。音頭の上げ手が半纏ではなく浴衣を使った晴れ着を着ているのは沼宮内や盛岡では見られず、川口独特である。

 沼宮内に比べ、祭礼が中止になる年が多い。

 

 

 

 

井組『四ツ車大八』

井組

 境田、二ツ森、草桁地区。川口では最も新しい山車組で祭典復活以降に参加、自作化以前は盛岡観光協会を中心に山車一式を借り上げていた。

 平成11年に「義経八艘跳び」を自作し、岩手日報に報道される(大八車もこの年に製作)。以来、見返しを郷土出身の「原爆で散った未完の女優 園井恵子」と定めて場面を変えながら毎年飾っており、井組のカケスのそばには園井の像がある。自作後15年程は他の2台と比べてやや荒削りな作風であったが、独特の勢いがあるダイナミックな山車であった。近年は町内初登場の題材・長らく使われてこなかった題材も出てきている。演題札に加え組名を書いた札を立て、音頭は自前の歌詞をいくつか作る。岩肌仕立ての立ち岩・上に大きく抜ける桜・縦に積み上げた松・交互点灯形式の照明法など、飾り方は沼宮内新町組の作法に倣っている。海に場面取りした演題の場合は、横波を照らすように青い蛍光灯をつける。

 借り上げ期は色刷り、自作後は平成13年まで白黒絵紙を番付に出していたが、現在は毎年同じ模様の手拭を使っている。半纏は明るい臙脂。

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仁田四郎忠常

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下町山道組『畠山重忠』絵紙原画(山屋賢一筆)

下町山道組

 下町、山道地区。断絶前は「下町組」で、一戸の橋中組等から人形を借りていた。復活当初は沼宮内から台車を借り、飾りは盛岡のい組やは組から借りていたが、平成3年に「桂川力蔵」を自作、平成5年には岩手町の代表として銀座祭り(東京都)に「義経一の谷」を派遣し、自前の大八車を作った。武者もの、特に源平ものの取材が多く、義経弁慶の登場する作品は自慢のものである。騎馬武者は川口では、長くこの組だけが出す趣向であった。従来に無い構図を川口では最も多く取り入れる組であり、近年は専ら歌舞伎題材を選び当組特有の迫力を加えて仕上げている。見返しには「狐踊り」「川口神楽」「鬼剣舞」「鬼太鼓」など郷土芸能を飾ることが多い。

 岩肌に仕立てた立ち岩の一方に桜の木、一方に松の木をつけるが、松の枝がまったく岩の上に至らず片側にのみ4段にわたって飾られるのがこの組の特色である。絵紙は年代ごとに趣向が凝らされ、旧来のものに手を加えて白黒刷りの一部を彩色したような珍しいものもあった。現在はおおむね色刷りの絵紙で、絵柄も特注ものが多く、石鳥谷・日詰など町外の描き手によるものもある。音頭の歌詞も自前のものを作る。照明は交互点灯形式で、沼宮内新町組の系譜。半纏は鮮やかな青色。

 自作以前の縁で、たびたび盛岡の仙北町から頭など部品の一部を借りることがあった。

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義経弁慶高館合戦  畠山重忠  鐘入解脱衣   

 

 

み組『鬼若丸』

み組

 上町、駅前、野原、松原地区。断絶前は同地区に「上町組」「駅通り組」の2つの山車組があった。日詰などと共通する駒木人形の山車を借り上げて数年の後、沼宮内のの組等から指導を受けて自作に至った(平成6年の「碇知盛」)。人形は長らく盛岡一番組や志和町山車(紫波町上平沢)と共通する部品で作られ、見返しは一番組の花咲爺の組み替え…というスタイルが続いたが、現在は沼宮内に発注した頭・手足で豪快な裸人形等を手がけている。

 岩肌仕立ての立ち岩に片側桜三段松、み組の場合松が下段に至るほど量感を増すのが特徴である。照明は他の2団体とは異なり沼宮内にも見られないスタイルであり、松にフラッシュライトを吊るす。演題立て札の墨書は書道家によるもので、演題に合わせて字体が工夫されている。

 絵紙は長らく色刷りのものを出し、借り上げ時期も絵だけ新調したり、貸出先が白黒の絵でもみ組は色刷りとした年があった。近年(平成25年〜)はタオルに変わっている。演題に絡む音頭は伝統的な歌詞を使うが滅多に上げず、おおむね祝い音頭を使う。半纏は深い緑。

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新田義貞  毛剃九右衛門  碇知盛  児雷也


祭典山車の歴代演題




川口秋祭りの印象(お通り見物を中心に)


下町山道組『連獅子』

 岩手川口は、その昔源之丞という殿様のお城があった城下町でした。すっかり寂れてしまったかつての繁華ですが、城下町の風情が年に一度だけ、お祭りの日に帰ってきます。

 「お立ーちいー」午後1時、川口豊城稲荷神社のお神輿が街をゆっくりと練る出発の合図。「えーんや、どっこい、どっこい、まかしょう」緑色のマントを着た奴さんが大音声で先導する大名行列(川口氏の知行は1万石未満のため正確には「大名」行列とはいえず、「どっこい」の名で呼ばれる)です。毛槍がゆっくり左右にゆれ、川口氏の紋所を背にした総勢300名の一大歴史絵巻がゆっくりゆっくり、町を進んでいきます。
 どっこいどっこいの気合の他に、民謡調の歌いも聞こえてきました。道具箱を運ぶ人足達の「長持唄」です。長持ちが地面に触れないように赤い棒をつっかえにして辻に暇を請い、現在では沿道からたくさん上がる御祝儀のお礼にのどを鳴らしています。
 腰元をたくさん引き連れたお姫様の輿もやってきました。御祝儀を集めて回る2匹の虎は、所々で腰を落として休みます。もちろんコレはぬいぐるみの虎ですが、操る2人はあくまで、動物として虎が休んでいるように、工夫して座り込みます。
 代官を乗せた馬が行き、たくさんのお供が続く大名行列。秋浦大名行列は、かつて殿様自らが神社の大行事に進んで協力したことの名残といいますが、昔も今も川口の祭りへの熱量は変わらないようです。

川口神楽の路上演舞(平成11年撮影)

 いよいよ神輿がやってきました。神輿には先祓い・後祓いといって、芸能がお供をします。神輿の前では鳥兜をつけて鈴木を振りながら踊る「川口神楽」(先祓い)、後ろでは真っ赤な衣装が印象的な「狐踊り」(後祓い)が踊られます。狐踊りはお稲荷様が初めて川口に来たときにお祝いに踊ったといわれる大変コミカルな踊りで、北日本では川口だけで踊られている珍しい芸能です。いろいろなところへアトラクションに招かれている狐踊りですが、この行列のさなかにいる狐踊りの姿は格別。お稲荷様への庶民の信仰や親しみが満ち満ちていて大好きです。このほかさんさ踊りや近在からのゲスト芸能も入って、いよいよ山車の登場となります。

 全体に見て、川口の山車には山河自然の雄大さがそのまま現われ、まるで本当に山が一つ動いてきたような臨場感があります。雄大な山車です。緩やかなリズムのお囃子が融和して、のどかな行列を締めくくります。何度も何度も音頭を上げながら進む、実に2時間余りに及ぶパレードです。

井組『園井恵子』第1作

 …川口秋まつりには、日々の日常で私達がとっくの昔に見失ってしまった緩やかな時の流れがあり、個々の要素の充実もさるところながら、やはり全体の雰囲気、この町が醸し出す「マツリ」の雰囲気に、毎年毎年ジーンと来てしまいます。

 

 

 



《詳細日程》


初 日

pm12:40 山車3台、川口豊城稲荷神社前集結(み組のみ、午前の運行なし)
pm
:00 稲荷神社神輿御渡り
・どっこい(秋浦大名行列保存会)
・川口神楽
・川口狐踊
・(南山形さんさ踊り)
・(野原さんさ踊り)
井組山車(音頭あり)
下町山道組山車(音頭あり)
み組山車(音頭あり)
pm:00 お通り行列解散、山車待機(夕方まで)
pm
:00 山車3台小屋入りのため商店街通過、音頭上げ(5本程度)
pm
:30 井組納車終了



 

下町山道組『義経弁慶鵯越』

中 日
※各山車ともに午前9時前にはカケス出発の慣例

am10:00 野原・雪浦(繁華より北方に1キロ)を山車・芸能が連動して門付け
pm
:00過ぎ み組の山車が商店街入り、山手の門付け
pm
:00頃 全山車、稲荷神社付近に集結
pm
:00 川口音頭流し踊りパレード
・川口音頭流し踊り
・川口神楽
・川口狐踊り
み組山車
井組山車
下町山道組山車

※出発時は昼間・終了時刻につれて夕闇・夜となる

pm6:30過ぎ、山車Uターン開始、パレード解散 



 

千秋楽

pm10:00 各山車自由運行(だいたい午前8時頃カケス出発)
pm12:00
 山車3台、働く婦人の家前集結
pm
:00 稲荷神社神輿御帰り
・どっこい(秋浦大名行列保存会)
・川口神楽
・川口狐踊
・南山形さんさ踊
・野原さんさ踊
井組山車
下町山道組山車
み組山車

秋浦大名行列(3日目駅前行事にて)

※行列は2時半過ぎに駅前に至り、若干の休憩と演技・音頭競演等を経て3時に駅前から再出発


pm:00 お帰り行列解散、大名行列・郷土芸能は神社境内へ、山車は休憩・自由運行〜18:30頃
pm
:20 郷土芸能、社殿前にて奉納演舞
pm
:40 川口神楽・川口狐踊り本部前にて踊り納め

※御還り後の山車の動向
(下町山道組)すぐ出発し、たくさん音頭を上げつつ市街中心部へ→左折し山道方面〜18:00/山車を置いて門付けに歩き、19:30頃納車・納め式
(み組)17:30過ぎ出発、神社から北上→駅通り→18:30過ぎに納車
(井組)17:45頃出発、ゆったり帰路を進む


 

 

※例年登場する郷土芸能※

※他に、平成8年ごろまで「高梨七つ踊り」が参加していた。

 





【本項掲載写真】
出を待つきつね踊り  井組平成17年『四つ車大八』  下町山道組平成24年『畠山重忠』絵紙  み組平成27年『鬼若丸』
下町山道組令和元年『連獅子』  川口神楽  井組平成11年見返し『園井恵子』(第1作)  下町山道組平成11年『義経弁慶鵯越』  平成24年祭典最終日駅前競演

 



文責・写真:山屋 賢一


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