盛岡山車の演題【風流 児雷也】
 

児雷也

 



「三竦み」岩手町沼宮内の組平成6年

 化け物の山車といえば、盛岡の山車好きなら一番初めに、忍術使いの『児雷也(じらいや)』を思い浮かべるだろう。
 大きな蝦蟇蛙(がまがえる)の張子人形に錦をまとった伊達な大泥棒が跨り、妖術をかけている場面の山車である。人物とつくりものの相互必要性、蝦蟇に凝らされる数々の趣向、その製法…と、盛岡山車の化け物のあり方について、まさに典型といって不足のないものを備えている。

 『豪傑(ごうけつ)児雷也』とも。児雷也は義賊(ぎぞく)、すなわち弱きを助け強きを挫く盗賊であり、庶民の味方である。江戸時代の大衆向け読み本などにも登場するが、大正時代には無声映画で、巻物を咥えた児雷也が蝦蟇に変身する場面が大変な人気を集めた。原典の歌舞伎は、九州の没落大名の遺児「尾形周馬(おがた しゅうま)」が、黒姫山(妙香山とも)にすむ仙素道人(せんそどうじん)に蝦蟇の妖術を授かって児雷也と名乗り、世直しのため泥棒を繰り返す物語である。蛞蝓(なめくじ)を操る綱手姫(つなでひめ)を伴侶に迎え、大蛇に取り付かれた自分の弟子と戦う「三竦み(みすくみ)」の活劇が最大の見所であるが、三者はそれぞれ、蝦蟇は大蛇に竦み、大蛇は蛞蝓に竦み、蛞蝓は蝦蟇に竦むので、なかなか勝負がつかない。現代でいえばジャンケンのような取り合わせである。

 盛岡山車の児雷也の定型を作ったのは、盛岡市関口の消防十分団「新盛組」、現在の「み組」である。み組が使っている児雷也の頭は一戸町や岩手町にたびたび迎えられ、現地の児雷也を作り上げたこともあった。盆の上に大きな蝦蟇を作り、その上で印を結ぶ児雷也の姿は「三竦み型」と呼ばれている。四方八方から怪しい煙が立って、児雷也が蝦蟇に変身する場面である。

 構図の大枠が盛岡山車伝承域に広く伝播して人気の趣向となり、現在も様々に試行錯誤がなされている。平成に入ってからも、蝦蟇の上の児雷也が巻物を口に咥えたり、あるいは広げて見せたりと、様々なポーズが考え出された。野田組、橋中組など一戸まつりに出た児雷也の山車は、たびたび途方もなく大きな蝦蟇を乗せて観客を驚かせた。動物を作るのが上手な上町組も近年挑戦し、大きく見事な蝦蟇を拵えた。
 

「片手六方」紫波町日詰上組平成元年

 「片手六方」の児雷也は、千両箱を小脇に抱える構図で、蝦蟇は傍らに控え、蝦蟇に乗らない分児雷也の存在感が強調されている。金持ちの家に泥棒に入った児雷也が、追っ手の追跡を蝦蟇の妖術で打ち破る場面である。従来児雷也の着物は黒を主体とし、雲や稲妻などの刺繍を施したものであった。これに対し、六方を踏む児雷也の着物は観音菩薩の浮遊するギラギラした錦織で、まばゆいばかりの豪華さがいかにも大泥棒・妖術使いという雰囲気を醸し出した。
 六方の児雷也は、盛岡の二番組が昭和50年代に作った。いわば三竦み児雷也の確固たる定型を作ったみ組への、果敢な挑戦である。その精神は「駒木人形」と俗称された地方の借り上げ組に大きな影響を残し、平成初頭は日詰や石鳥谷でこの型の児雷也がよく出てきた。かつて駒木人形山車組みであった沼宮内の大町組も、自作後、定番の三竦みに優先して片手六方型の児雷也に取り組んでいる。現在見られる山車の児雷也の衣装は、六方・三竦み問わず、金色を多用した二番組風の衣装が主流となっている。

蝦蟇の仕掛け

 

 見返しは、児雷也の妻『綱手』を飾ることが多く、これも十部み組が作った定型である。綱手は蛞蝓の妖術を使い、夫と協力して大蛇丸と三竦みの決戦をする。綱手姫の髪型は芸者のように結い上げたものもあれば、笠をかぶせた質素なものもある。手にする武器は綱をつけた鎌であったり、あんまの持つような杖であったり、妖術の巻物であったりと、様々だ。首にはささら(経文)を吊り下げている。
 現状を見る限りでは衣装に一貫性は無いが、必ず大蛞蝓の張子を伴う。み組は舞台の下半分を大きく取って蛞蝓を飾るが、沼宮内の大町組では蛞蝓を立ち上がらせて、大蛇と格闘させた。見返しとしては非常に手間隙のかかる演題なので、取り上げた組は偉いというか、こだわりを感じる。

 敵役の『大蛇丸』の山車も、数例製作されているが、小型の山車であった場合が多い。姿は児雷也と似たり寄ったりの忍者装束で、大蛇の位置は作品によって様々である。

「蝦蟇仙人」盛岡市三番組平成11年
 
 上記したような蝦蟇を伴う定型が、平成十一年にいたって破られた。盛岡長田町の三番組は、黒姫山で蝦蟇仙人に巻物を伝授される若い児雷也を山車に凝らしたのである。仙人の着物の両袖を舞い上げ、目玉には電球を入れて凄みを出した反面、児雷也には赤い着物を着せて斬新に表現した。このような作品例は盛岡山車の枠を超えても探すのが難しく、新世紀を担うにふさわしい素晴らしい創意である。
 石鳥谷の下組が自作後に児雷也を出したときは、見返しに小さい蝦蟇を添えて蝦蟇仙人『仙素道人』を飾った。

『仙素道人』石鳥谷町下組平成14年

 

他地域の児雷也

 

文責・写真:山屋 賢一

 

 

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(音頭)

君の大典(たいてん) 五穀(ごこく)は実り 国の景気も 飛氣返る(ヒキガエル)
変化(へんげ)自在の 呪文の響き 渦巻く雲に 結ぶ印(いん)
妖し(あやし)
児雷也 妖術使い 奪い抱えた 軍資金
蝦蟇の妖術 異国に学び 錦を飾り ふるさとへ
妖術操り 武勇を立てて 義賊
(ぎぞく)児雷也 三つ巴(みつどもえ)
蝦蟇に移りて 大蛇に化して ここに児雷也 わざの冴え
巫女のすがたも 灯し
(ともし)も消えて 片手六法(かたて ろっぽう)
 蝦蟇の術
秘文
(ひもん)
をうけて 呪文を唱え 蝦蟇の姿で 悪を討つ
越後
(えちご)連なる 妙香山に 訊ね(たずね)
学びし 蝦蟇の術
英傑
(えいけつ)周馬の 戦国奇談(きだん)
 民衆世界に 花咲かせ
悪を懲らしめ 庶民を助け 義賊児雷也 晴れ姿
蝦蟇
(がま)
に蛞蝓(なめくじ) 大蛇の術に 追いつ追われつ 技くらべ



(綱手姫の音頭)
蝦蟇の妖術 ただ一呑み(ひとのみ)と 狙う大蛇に なめくじら
いとも艶やか 綱手の術は 花の舞台に 色誘う
蛞蝓
(くわつけ)のつるぎ 大蛇を倒し 児雷也救う 綱手姫
蝦蟇の妖術 大蛇の技を はばむ綱手の なめくじら
競う妖術 大蛇に蝦蟇か くのいち綱手が 技で勝つ

(天竺徳兵衛の音頭)
巳年(みどし)生まれの 女の血にて 蝦蟇の術をば 砕かるる
謀反人とは 芝居のつくり 実は海外 貿易商



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