石鳥谷は歌舞伎山車を好むので、子供たちも熱心に歌舞伎を勉強するらしい。
そういう土地柄ゆえか、今年はマニアックに過ぎる演し物もちらほら見られた。石鳥谷流か、古風の変化か。
命知らずの め組を敵に 回す阿修羅の 四ツ車
其の名大八 花四ツ車 神明弥生の 町土俵
江戸時代の力士と火消しとの大喧嘩を描いた定番の演題。髪は結い上げず碇知盛のようなざんばら髪で飾っているが、これは盛岡市外・一戸や石鳥谷でかつて見られた作法で、昭和53年の下組前作もこのような仕上げて作られている。
普通車輪だけ上げるところを、豪快に荷車ごと上げた。盛岡山車有数の大人形組、この構想に取り組む心意気と、見事に仕上げたセンスのよさに脱帽。
破邪の竹持ち 剛力無双 迫る物の怪 押し戻し
（見返し）業の深さに 化身となりぬ 憂き世かなわぬ 恋の果て
押戻というのは、歌舞伎の舞台に悪魔や妖怪が現れた時、これを押し戻して災厄を防ぐという儀礼的な演出で、荒事歌舞伎十八番のひとつ。団十郎は蓑を着て、どてらの下は鋲打ちの赤い着物、霊力を備えた青竹を担いで高下駄履きで登場する。最終日には絵紙通り、背中に大きな笠を背負った。
現在では道成寺の最終盤で登場する押戻が一般的なので、定例見返しは道成寺の白拍子花子（実は清姫)。
夢も栄華も 波間に消えて さだめ悲しき 出逢いかな
平家再起の 帝を託し 波に散り行く 中納言
能であれば『船弁慶』といって、義経都落ちの大物浦の嵐を「平家の怨霊の仕業｣と描き、弁慶の調伏で何とかこれを鎮めるという物語。歌舞伎『義経千本桜』では、そもそも平家一門は生き延びて再起を図っており、亡霊に化けて嵐のさなかに義経主従を襲う話に変わる。策を見抜いた義経は「亡霊｣平家軍を打ち負かし、弁慶は知盛に数珠をかけて引導を渡すが、知盛は納得せず数珠を投げ捨てる。「勧進帳｣に並ぶ両者の鬼気迫る駆け引き。
勅を奉じて 三条小鍛冶 打つや帝の 守り刀
稲荷に願かけ 神狐の槌で 生まれし名刀 世に残す
神の使いに合いの手を頼まなければバランスが取れないほど、名工小鍛冶宗近の腕は確かであったという物語。盛岡市の外ではおそらく初の取り組みとなる演題で、きちんと祝いの意図を含んでいる。
出雲の国の 神代の話 大蛇退治の 武勇伝
（見返し）命救われ 尊の前に 舞うは稲田の 恋心
今年は古事記編纂1300周年の年、各地で八岐大蛇退治の山車が出ているが、これは少々ひねった「歌舞伎の大蛇退治｣。
「日本振袖始め」といって、序盤でスサノオが高熱で苦しむ稲田姫の着物の袖を切って熱を逃がし、袖の中に守り刀を入れるという「振袖の由来」エピソードが入り（見返しは「日本初の振袖」で踊る稲田姫？）、佳境は公家のような雅やかなスサノオと夜叉の姿の八岐大蛇（岩長姫）との戦い。
（管理人連絡先：sutekinaomaturi@hotmail.co.jp)
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