岩手県北上市 二子の火防祭

 

 

山車の前面(代々講)

 花巻まつりを岩手の山車祭りの代表にあげる人も多い。広い観客層に訴え得る花巻まつりの魅力はいくつかあるが、独特の優美な旋律を持つ「花巻ばやし」を第一にあげる人も多いと思う。
 この花巻ばやしには、実は師匠がある。もともと二子(ふたご)町3町内が火防祭で使っていた「吉原囃子(よしわらばやし)」を学んだものだという。二子の吉原囃子は、花巻まつりのほかに北上市内の山車祭り(黒沢尻、江釣子)でも使われ、江刺甚句祭りでも町内屋台が演奏している。二子の山車行事自体はごく狭い地域でしか知られていないが、二子の山車に影響された山車祭りは、このように周辺地域にいくつも見られるのである。
 二子宿(しゅく)の火防祭は、もともと旧暦の2月8日とその翌日に開催されていた。最近は春分の日に合わせ、周辺土日に2日間開催されている。

 二子町から出る山車は、上宿の万代講・和小路の代々講・下宿の秋葉講の3台である。団体名に「講」の一字を取っているのが独特だが、これは当地で盛んな神仏習合の修験道と深く関わるものである。どれも荷台の付いたトラックに装飾を施した山車であり、綱を付けて引き子が引くわけではなく、運転手が一人で動かす。引き子に当たる人たちは紙で作った花笠をかぶり、山車の前後左右に控える。

山車の行列

 山車の前面は張子で作った秋葉山と鳥居を中心に据え、松、桜、牡丹などを飾る。人形は背面のみに飾り、題目は「風流〜の躰」と付く花巻・北上と共通の作法である。太鼓が人形飾りの下に付いていて、たたき手は手押し車や山車の後ろに乗った太鼓を歩きながら叩く。一部、稚児が数人山車の前に乗り込んで小太鼓などを叩く例も見られる。
 以下に、団体ごとの特色をまとめてみた。



各山車組の詳細記述(平成17年取材時)

万代講「五條大橋」
 「牛若を待つ弁慶」として登場。2人形で、ともに衣料用のマネキンを使用し、手のかたちは3団体中最も美しく仕上がっている。桜は玉桜と枝垂れ桜を併用しているが、枝垂れ桜は独特の製法で作った層の薄いもので、花と花をつなぐ部分も紙である。山車の前面に小太鼓を乗せた台車を着け(花巻と同じようなもの)、稚児が叩く。

※平成22年は「風流 おりょうと竜馬の体」で2人形、雨よけビニールは人形にだけ掛けていた。



代々講「五條大橋」

 トラックを大きな木枠で囲み、山車を大きく見せている。ペンキで波を描いたブルーシートを側面に吊り下げ、紙花は玉桜ではなく家庭で作るタイプのものだが、彩り鮮やかで、中には椿の紙花もある(葉は本物で、花は紙製)。松は幹と枝の付け根が金物で、先に松の小枝を付けると良い枝ぶりに仕上がる。枝垂桜のみ和紙で作り、一層の簡単なものだがきれいに飾られていた。人形は弁慶が創作ながらなかなかユニークで、牛若はすっかり観客に背を向けて据えられているマネキン人形であった。手足は軍手軍足に綿を入れたものを彩色してつくっている。

※平成22年は「風流 楊柳楽土の躰/風流 栗鼠虎獅子頼みの躰」。当年の干支である虎を正面、背面にひとつずつ配した創作演題で、上記平成17年にも干支の鶏が山車に上がっていた。



秋葉講「弁慶立往生」
 三団体中最も素朴で簡素な山車。人形の仕上がりも手作り風で、トラック部分が露出している。松に下がる藤はなく、桜は玉桜の立ち木のみ使用。小太鼓は後ろについている囃し方が片手に持ち、もう一方の手で叩く。
 平成24年は干支の蛇が鬼に捲きついて懲らしめている場面を製作、蛇の目が光る仕掛けつきであった。鬼を災害・復興を阻む障害に見立てて早期の震災復興を願っている。



万代講『八重の桜』

 山車を動かすときのお囃子は、残念ながら生演奏でなく録音音源で代行されている。個別に運行する時はおのおのがテープを流すが、祭典の一番の見所である神輿お渡りに随行する際は、一団体だけテープを流し、全部の山車がそれに合わせて太鼓を叩く。使われるのは小太鼓、大太鼓、三味線である。山車が休憩に入ると、やはり録音音源で花笠をかぶった踊り子が手踊りを披露する。このときは太鼓、鉦、笛、三味線を使ってお囃子をし、ばかばかしいような、でもとても楽しい入場のお囃子に乗って踊り手が次々に現れ、割合たくさんの種類の踊りを披露する。現代風のものもあるが、生演奏の趣を感じられるものもある。

 祭礼は2日間行われるが、このうち山車が動くのは初日のみで、夕方までで運行を終えてしまう。朝の10時半から行われる神輿パレードに合わせて、午後9時半頃から各団体が運行を開始する。

 同時に岩手県指定の無形文化財 上宿・下宿の大乗神楽が、二子部落の全戸を2日間かけて火防御祈祷に回る。絣模様のちゃんちゃんこを着た子供たちがたくさん随行し、権現舞の前に付ける「下舞」を踊る。体に合わない大きさの白扇や錫杖がかわいらしく、九字を切る細やかな手の動きはとても美しい。

 宿のほかに、北上市内各所で火防祭が行われ、いずれも権現舞を軒先で演じて屋根の上に柄杓で水を掛け、防火祈願を行って回る。鬼柳のように、消防の半纏を着て権現舞を演じて回る地区もあるようだ。

 

(公共交通機関によるアクセス方法)
 JR東北本線「村崎野駅」から徒歩35分、タクシーで片道900円程度。




文責・写真:山屋 賢一

(写真:@代々講の山車前面 A山車行列全体 B万代講『八重の櫻』)

※岩手県南から宮城県北にかけての風流山車行事集成

 

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