岩手県北上市 江釣子の火防祭

 

 

『近藤勇と坂本竜馬』第5区
平成16年

 旧和賀郡江釣子(えづりこ)村の鎮守江釣子神社の祭礼は、つい最近まで4月3日に日を定めていたが、現在は人が集まるよう上記のように改訂されたという。渡御行列・山車・子供みこしが、江釣子の町から西に伸びる一本道を藤根の町の入り口までバラバラに巡行する。山車と渡御行列が別々に動くため、祭典としての印象は非常にあっさりしている。

 神輿の渡御行列につく荒屋山伏法印神楽は、一本道(もともと江釣子神社の参道)に点在する妻川神社・天照御祖社など一つ一つの祠で権現舞を奉納する。
 山車は、数年おきに山車を作る町内が1つ2つあるようだが、毎年奉納を続けているのは第5区町内会である。ゴムタイヤ4輪の台車に欄干を組んで笹や波、しぶきを飾り、幅の狭い大岩を上に飾って表裏に人形飾りを作る。表面は大河ドラマの趣向、裏は時事を反映した趣向(平成16年は表に近藤勇と坂本竜馬、裏にハルウララ)や女性の舞姿などさまざまに飾っている。大岩の上に立ち桜・藤絡みの松・枝垂桜(葉乃至新芽をあらわす緑色の玉桜が混じる)を一枝ずつ打ち付け、欄干の笹に紙で作った牡丹を添えて出来上がる、手作りの素朴な山車である。表面にはベニヤ板で作った点灯しない雪洞を飾り、稚児装束の子供が乗って小太鼓をたたく。裏に鋲止めの太鼓を2つ詰めて、こちらは大人がたたき、笛のメロディーを添えるのみで三味線は付けない。『若囃子』『吉原囃子』などいくつかの音曲を奏しながら運行するが、前者は黒沢尻のものに、後者は花巻で耳にするものに似ている。
 山車の休憩時には子供が踊る太神楽の大黒舞など3種の余興が披露される。
 山車は朝の10時半頃江釣子駅前の倉庫を出発し、夕方5時前に第5区公民館前に戻る。解散式を終えるとその場で山車が解体され、公民館前には火が焚かれて玉桜などが燃やされてしまった。


平成17年

 この年には第5区のほかに【第3区宿組(しゅくぐみ)】の山車が出た。宿組の山車人形は、マネキンの首に肌色のペンキを塗って、鼻のところを白く塗ったものである。平成17年の演題は『義経出陣』で、馬上の義経に鎧姿の従者を一人付けた。右側には張子作りの竜を添え、表面の副題を『開運の龍』としている。見返しは『花さかじいさん』で、マネキンに髭をつけた人形で、背景には桃色の紙花を一面に貼り付け、足元には発泡スチロールを削って作った犬が飾られていた。
 余芸の大黒舞のために、山車に加えて多種類の太鼓を乗せたリヤカーを引く。リヤカーには玉桜の枝垂れが1枝飾られている。囃子方は山車の前面に稚児装束の子供、背面には太鼓を横向きにつけて大人が歩きながらたたく、第5区と同様の形式である。
 この年の第5区は、五条の橋で弁慶と牛若丸が技比べをする場面を出した。橋の欄干が立派で、両者とも直立不動の姿勢で動きはなく、牛若の笛は針金で天井の松から吊り下げるように固定してあった。見返しはマネキンで、佐渡おけさの粋なところを作っている。
 参考にこの年の見物日程を記すと、まず午前10時40分に会場入りし、第3区山車発見は11時半ごろ藤根商店街入り口、第5区の山車は12時半ごろ江釣子駅前第5区公民館にて発見した。

 

平成19年 メモ

・3区宿組「川中島/ねぶた絵巻」
〜馬を2つ使い、武者が3〜4体乗った山車だが、どれが謙信でどれが信玄かわからない。みな同じ甲冑を着た武者人形で、軍配を持って三本角の兜をかぶり眼帯をしているのが山本勘助と思われる。見返しは津軽凧絵を張り合わせたような平面の見返し。だいたい台車の5分の2くらいを人形が占めている。

 一本道の裏通りをものすごいスピードで西へ向けて運行、選挙のようなマイクパフォーマンスで組の名と演題名を紹介してまわっていた。

・5区「隻眼軍師山本勘助/神楽坂芸者舞」
〜馬を引いている眼帯をした鎧武者。見返しは扇形に切った大きな金板を背景に芸者が扇を持って踊っているところ。

 駅前のクリーニング店で祝儀返礼の踊りを踊っていたが、12時半ごろに本部である公民館に帰った。

(着眼点1)紙の冠
〜小太鼓の稚児たちがボール紙に金紙を張って作った即席の冠をかぶっている。花巻祭り等でもまったく同様のものを目にする。金板で作って保管しておいた方が効率がよさそうだが、あえて壊れやすい素材で作っているのは「更新の美学」か。

(着眼点2)雨除け
〜江釣子の山車は雨天の際の雨除けを囃し方の乗るところにしかかけないので、雨が降ると紙花が全部落ちてしまう。



(参考)
 公共交通機関によるアクセス:JR北上線「江釣子駅」・同じく「藤根駅」

※山車も神楽も非常に出会いづらいので、根気良く町内を回って見物しなければならない


文責・写真:山屋 賢一

※岩手県南から宮城県北にかけての風流山車行事集成

 

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